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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■若葉マークはどこへ行く/歌劇『さまよえるオランダ人』(ドイツ・ザクセン=アンハルト歌劇場)ほか
 でも、なぜだろう、以前来たときにはいたウミガメ、今日は泳いでいない。岩場に隠れてるのかと思って柱の周りをぐるぐる回るが、いるのはウツボばかり。いやウツボも好きなんでそれはそれでいいんだが。
 「どうしたのかなあ、死んだのかなあ」
 不安げについ呟いた私に、しげが無慈悲なヒトコトを返す。
 「うん死んだ。死んでるよ」
 ……やっぱりこいつには「愛」はない。ううううう(TロT)。

 ベイサイドのモスバーガーで食事。ほかの店は軒並み高いので、給料日前で苦しい我々はこんなところで食うしかないのだ。
 『キネマ旬報』11月下旬号をしげに見せて、冬の映画、何が見たいかを聞く。
 「『ハリー・ポッター』は行くやろ〜? あとは『スパイ・キッズ』に『シュレック』かなあ」
 「『シュレック』? 考えもしてなかったな。どこに引かれたん」
 「……えーっと……声優?」
 「誰が出てたっけ?」
 「マイク・マイヤーズにエディ・マーフィ」
 「どっちもおまえが嫌いな俳優やん」
 「そうなんよ」
 「だったらなんで」
 「なんか、出てくる姫が昼はいいヒトで夜は意地悪いヒトになるって」
 「……なんじゃそりゃ。そんなんだったらオレ、まだ『アトランティス』見に行ったほうが面白いと思うぞ。あと『ゴジラ』とか話題になってるし」
 「……どこで?」
 どうせオタクの間でだけだろう、と言いたげなしげの目線を感じたので会話を打ち切る。そろそろ開場の時間だ。

 
 ドイツ・ザクセン=アンハルト歌劇場日本公演2001/リヒャルト・ワーグナー歌劇『さまよえるオランダ人』。
 生まれて始めて見る生のオペラ、しかも本場ものである。
 こんな場末の劇場じゃどれほどの音響効果があるか心許ないが、結構期待してしまう。
 S席と言うので前の方かと思ったら、Sでも結構後ろの方。おかげで両袖に立てられた字幕ディスプレイ、私の貧弱な視力では平仮名がかろうじて見れるくらいで殆ど見えない。字幕を一生懸命見るだけで時間が過ぎそうなので、意味が知りたいときだけ見ることにして、話はまあ、仕草や動きで解るだろうと見当つけ、舞台に集中する。
 音響はやっぱり劇場のせいで最低。上演前のトークショーで、演出のヨハネス・フェルゼンシュタイン氏が「ドイツのオペラハウス並だ」とリップサービスをしていたが、それがホントならドイツの本場、よっぽど貧弱な劇場しかないってことになるぞ。「ドイツは国立劇場ばかりなのに日本は芝居が民間で行われている、素晴らしい」なんて言ってたのも文化の遅れをバカにされてるとしか思えん。
 演奏は手抜きしてるとは思えないのに、ともかく胸に響いて来ないのだ。CD聞いてるのと変わらん。いや、オーディオ設備次第じゃ、CDの方が感動があるかもって言いたくなるくらい、反響がない。……東京じゃBunkamuraオーチャードホールってとこで上演したんだなあ。きっといい劇場なんだろうなあ。ただチケットなんで文句も言えないが、もちっといい劇場で聞きたかったよ。
 今「聞く」と書いて「見る」と書かなかったが、オペラは演劇的に見ればやはり歌舞伎と同じで様式のものである。現代劇のような微妙な人間の心理を表現するものではない。ともかく、ヒロインやたらと両手広げてるし。
 しげはその大仰な表現に、上演中、クスクスしっぱなしだった。
 芝居が終わって、しげが聞いてくる。
 「結局、あれ、どういう話なの?」
 「……つまり、『呪いのかかったオランダ人が7年に一度陸に上がって、そのとき貞淑な女に愛されたら呪いが解けるんだけど、せっかく見つけた女には昔の男がいて、裏切られたと思ったオランダ人は自分から去ってって、女は自分の貞淑を証明するために海に身を投げて自殺する』って話じゃないの?」
 「やっぱ、それだけ?」

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11月16日(金)
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