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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■踊る私と寝る私/映画『十兵衛暗殺剣』/『ザッツ・ハリウッド』ほか
 タイトルに「ザッツ」とつけてるあたり、MGMの『ザッツ・エンタテインメント』を意識してるのだろうけれど、原題は“Hidden Hollywood”で、“That's”なんてついてない。でも、そう付けたくなるのもよくわかるのである。なんたってこれは、20世紀フォックスの100年の映画の中から、今は失われたと思われていたもの、編集の段階でカットされたもの、カメラリハーサルのフィルムなどを探し出して一挙公開したものだからだ。
 MGMへの対抗意識があるとは言え、本気でこれは面白い。MGMといえばそのドンはあの「タイクーン」ダリル・F・ザナックなのだけれど、彼の眼鏡に適ったもの、適わなかったもの、そこには個人的な趣味と言ってもいいやや独善的な判断が色濃く反映されている。
 そのため、捨て去られたフィルムの中には今の眼から見れば間違いなく傑作、と言えるものも膨大な数だけ秘蔵されていたのだ。
 あのねえ、『天晴れテムプル』(1938)のシャーリー・テンプルとジミー・デュランテの“クライマックスの”ミュージカルナンバーまでがカットされちゃってんだよ、こりゃ、言ってみれば『虹の彼方に』のカットされた『オズの魔法使い』、『ドレミの歌』のない『サウンド・オブ・ミュージック』、『マイ・ブルーヘブン』を歌わない『エノケンの法界坊』みたいなものではないか。
 しかもその理由が「テンプルちゃんが生意気に見えたから」……テメーの主観でミュージカルナンバーを勝手にカットするなああああ!
 また、かわいそうなのが伝説の黒人タップダンサー、ビル・ロビンソン。舞台ではシルクハットに燕尾服の粋なスタイルで人気を博していたのに、映画ではいつも使用人の役、唯一本人役で出演した『カフェ・メトロポール』(1937)は、役そのものがカットされた。「黒人が活躍するシーンなんて許せない」という観客の抗議にザナックが屈したのだ。差別や偏見が映画・演劇・文芸の数多くの名作を闇に葬ってきた例は枚挙に暇がないが、やはり表現の自由はどこまででも保障されないといけないのだ。
 W.C.フィールズやバスター・キートンの失われたコメディ・シーンが再現されているのもコメディファンには必見だろう。

 見ながらようやく眠りに落ちたので、後半はうろ覚え。そのうちまたゆっくり見なおそうかな。

10月17日(水)
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