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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■地球が静止した夜/『ななか6/17』3巻(八神健)
しげにとっては、こんな自分に何の関係もない、些細なニュースには全く興味がないのだ。
……この、しげの、ある意味冷酷な態度のおかげで、私もようやく冷静になれた。
世間では、しげのこんなノンシャランな態度に対して、「これだけの大惨事に、悲しみの一つも覚えないのか」とか、「自分に関係がないなんて有り得ない、政治的、経済的にも世界への影響がどれだけあることか」とか、激烈に非難する人もあろう。
だが、「いったい何が原因でこんな事態になり、今後自分にどのような形でこの事件が具体的な影響を与えるか」何一つ解っていない状況で、慌てふためいて「大変だ大変だ」を繰り返す人間の方が、突発的な事態でパニックに陥って周囲の被害を増大させる連中の同類だとは言えまいか。
しげは世界の情勢に対して全く興味がない。
政治も経済もしげの世界の中には存在しない。
日頃がそうであるのに、今日に限って狼狽したりしたら、それこそ不自然だし、「自分」というものをなくしている。
ましてや、顔も知らぬ人々が死んだことに対して、いきなり哀悼の意を示すような「偽善」を、しげが働くはずがない。
あの、この日記で私はしょっちゅうしげのことを貶しているので、すわ夫婦仲が悪いのではないかとか、これは「離婚秒読み日記」なのかとか思ったりしてる人がいるかもしれないけどね、実際しげ自身が、そう思ってたりもしてるんだけど(笑)、私がしげと結婚した一番の理由は、この「冷酷さ」なのだよ。
というのが、私は「偽善」が好きでねえ。
だって、「安全圏」でものを言うのって、楽じゃないの。表だった批判もされずにすむし、何より汚いもの、醜いものから目を逸らしていられるんだしさ。
つまりは、人権を声高に叫ぶ人間が一番人権をないがしろにしてるってことだよ。
……そういう私の「善人ぶりっ子」に冷ややかな目を向けてくれたのって、しげしかいないわけだよ。
だったら、私も、しげに対しては「本気」でぶつかっていかなきゃならんでしょうに。日頃、しげを貶しまくってるのはそういうわけです。
事件の続報は次々に入り、そのたびに状況は変化していく。
攻撃されたのは、センタービルだけではなく、国防総省、ペンタゴンにも飛行機が突っ込んだこと。
ピッツバーグでも墜落した飛行機があること(これは目標を達成できなかったものか)。
突っ込んで行ったのは「戦闘機」だったという情報も流されたが、機影を見る限り、あれは戦闘機などではない。普通の航空機だ。
案の定、「航空機はハイジャックされたものらしい」というニュースが流れる。
攻撃目標の無差別性(非戦闘員も狙われたという意味)から、標的が「アメリカ」そのものであることはどうやら見当がついた。そう考えると、これは実に「効率的」な攻撃である。
なにしろ、自分たちの手持ちの武器を用意する手間は全くないのだ。
攻撃する武器も敵のもの、目標も敵のもの、それでいて、何千人もの犠牲者を出すことができ、こちらの犠牲は数人ですむ。
ちょうど偶然、午前中に『ニュースの裏には科学が一杯』という本を読んでいて、「カミカゼアタックが失敗したのは、加速すると翼に揚力が働いて、目標を飛び越えてしまうから」と書いてあったのだが、となると、あの操縦をしていたパイロット、相当な腕の持ち主だということにもなる。
「飛行機の訓練をする」だけで甚大な被害を敵に与えることが出来るのである。考えてみれば、こういう効果的な攻撃が、今まで一度もされていないということのほうが稀有なのではなかろうか。
いや、そういう戦闘がなかったわけではない。こちらの人的被害を最小に、敵の被害を最大に、という攻撃、超有名な事例が一つあったではないか。
ベトナム戦争におけるアメリカ軍の「枯葉剤」の使用である。
あの、ナチスドイツですら、毒ガス兵器を開発しておきながら、連合軍による更なる報復ガス攻撃を恐れて使用できなかった(一部、実験的使用に留まった)、大量殺戮の手段を、アメリカ軍は採ったのだ。
今回の攻撃、まるでアメリカ軍の顰に倣ったようである。
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09月11日(火)
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