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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■世界で一番の石野真子!/舞台『Shuffle(シャッフル)』
主人公の刑事・乾利貴(伊原剛志)は、墜落事故で認知障碍を起こして目の前の相手が別人に見えてしまうようになる(相貌失認と言うそうな)。例えばAさんがBさんに、BさんがCさんに、CさんがDさんに、DさんがEさんに見えてしまうのである。せっかく怪盗団の正体を目撃したのに、果たして乾は事件を解決できるのか? 迫り来る怪盗団の魔の手にも彼は気が付くことができない……というスジ。
この、「別の人間に見える」っての、似たようなネタを前にどこかで見たか聞いたかしたような気がするんだけど、思い出せないんだなあ。「視覚と聴覚が入れ替えられる」ってのは『虎よ!虎よ!』のネタだったけど、それじゃなくてもっとストレートに似てる作品があった気がしてならないんだけど。多分、吾妻ひでおのマンガかなんかだ。
面白いのはもちろん乾の目の前の人物が全く「噛みあわない」言動をするシーンなのだが、そこにたどり着くまでの展開が少々もたつく。怪盗団チップス三人組(風花舞・山内圭哉・松谷賢示)の登場シーンなど、恐らくはわざとアドリブで場つなぎをさせてるようなのだが、これがあまり面白くない。繰り返しのギャグがしつこすぎて、笑えないのだ(でもほかの地方の公演では面白かったのかもしれないが)。
けれど、警察医の賽野目(鹿内孝)から、相貌失認であることを知らされてから、物語はどんどん転がり始める。上司の剣女史(平田敦子)が同僚の梶野(三上市朗)に見えてしまい、鼻をつまんでどやされるくらいは序の口で、チビ・メガネ・ブス・博多の田舎者(笑)と三拍子揃った警備員の三つ葉幸子(奥菜恵)が、20年来の大ファンである石野真子に見えてしまうに至っては、実態と外見のギャップに引き裂かれて乾は身もだえする。
それにしても、アイドルは星の数ほどあれど、石野真子に白羽の矢を立てた後藤ひろひとさんのセンスの良さよ! うん、これは「今のアイドル」には絶対こなせない役だ。それどころか、かつての同年代のアイドルたち、大場久美子や榊原郁恵にもムリな役だ。彼女たちでは庶民的に過ぎる。どこか現実との距離を感じさせるあのキャンディー・ボイス、彼氏を狼だの首領(ドン)だのジュリー(沢田研二)だのに見立てる“いったい君はナニモノだ”という石野真子だからこそ、「幻想ヒロイン」が演じられるのである。今のアイドルでギリギリ石野真子に近いスタンスで売られているのは小倉優子かとも思うが、石野真子はあんなただの馬鹿ではない。石野真子の前に石野真子はなく、石野真子の後に石野真子はないのである。後藤さん、あんたはエライ!(←小松政夫風)
石野真子の話ばかりしてもなんなので、ほかの役者さんについて。タイトルロールの乾“シャッフル”刑事を演じる伊原剛志、石野真子の皮をかぶった(アイドル衣装がまだ似合う脅威!)奥菜“ドブス”恵を前にして「近づきたいけど近づきたくなくてでも近づきたいような」ってクネクネする演技、がやたら可笑しい。長身の伊原さんが演じているだけに、『オズの魔法使』のカカシを彷彿とさせるのである。しかも、乾の脳内シャッフル、“一度だけではない”のだ。奥菜恵は博多弁を喋っているのだが(長浜ラーメンの兄ちゃんに特訓受けたそうである)、これが石野真子の口に“移って”流暢に流れて来ると、もうかわいらしいったらないのよ! 奥菜恵ももちろんかわいいんだけど、石野真子はもっと……いかん、また石野真子に話が戻ってしまった(笑)。
今回、「美女ヒロイン」が、奥菜恵、風花舞、澤田郁子、そして石野真子と四人もいるのだが、この四人に揃いも揃って「チンピラ情報屋」を演じさせるセンスというのがすばらしく楽しい悪ふざけである。さらには、申し訳ないが美女の系列からは外れてしまう(失礼)平田敦子は、もう絶品としかいいようのない「山内圭哉のマネ」を披露してくれる。……って、平田敦子と山内圭哉を知らないとこれがどれだけものすごいか、コトバじゃ全然わかんないねえ(超オデブな女性がつるっぱげの関西ヤクザを演じていると思ってください)。
女優陣はそれぞれ実に個性的なのだが、やはり三つ葉幸子を演じている奥菜恵が「新境地」と言ってもいい、いかにも後藤ひろひと脚本らしい「変身ヒロイン」を演じている。
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05月16日(月)
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