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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■「ポリープ」って音の響きは美味しそうなんだが/舞台『ジャン・コクトーの「声」より』
コクトーと言えば不条理劇という印象があるが、これは随分とストレートな芝居のように見える。しかし、姿の見えぬ相手と「声」だけで繋がる「電話」の存在自体がコクトーにとっては不条理極まりない存在だったのであって、ましてやそれが自分が全く知らない女に聞かれ続けているとなれば、これは恐怖を喚起する悪魔の道具にすら思える。現代では、コンピューター制御でこんな混線は殆ど考えられなくなってしまったが、ちょっと前だと携帯電話の盗聴問題は携帯の普及を阻む大問題であった。
顔の見えない無情な声、耳には届かない気配だけの声が、女の心を侵食していくこの芝居は、普通の芝居のように見えて実はやはり「現実の不条理」を描いたものなのである。
そういったコクトーの感覚が現代人には伝わりにくくなっているだけに、『声』を舞台に乗せるには演出上の工夫がかなり必要だろうと思われるが、そういう点にはあまり注意を払ってはいなかったようだ。電話をわざわざフランスから昔のものを取り寄せたり、小道具には凝っていたけどね。
アニメーション映画賞関係のニュースも、残すところはアカデミー賞くらいになってきたが、その前哨戦ともいうべき第32回アニー賞が、先月30日に発表。
作品賞のノミネートは『イノセンス』『Mr.インクレディブル』『シュレック2』『The SpongeBob SquarePants Movie』の4本で、最有力候補は『インクレディブル』だった。結果は大方の予想通り、『インクレディブル』が作品賞を獲得。それどころか、監督賞、音楽賞、アニメ効果賞ほか、10部門を制覇するという快挙である。
『インクレディブル』の映画自体は私も感嘆して見たし、作品賞受賞自体に反対はないのだが、さてまあ『イノセンス』が一部門も受賞できず(作品賞、監督賞、アニメ効果賞、音楽賞でノミネート)、『インクレ』が10部門全部受賞となると、アメリカは自国ビイキが過ぎるなあと思ってしまう。いや、世間の評判に引きずられて、審査員がみんな「インクレ熱」にかぶれただけではなかろうか。どうしてもそんな風に疑ってしまうのは、「最優秀声優賞」が、『シュレック2』のアントニオ・バンデラスや『インクレ』のサミュエル・L・ジャクソンら錚々たるメンツを蹴散らして、エドナ・モード役のブラッド・バード監督本人に与えられた、という冗談のような結果ゆえにである。そりゃあねえ、確かに女性の声にしか聞こえない名演だったなあと思いはするけれども、ブラッド・バードは美輪明宏じゃないでしょう。ヒッチコックの作品で助演男優賞に監督本人を選ぶようなもんで、ファンは喜ぶだろうけれども賞としては問題があるんじゃないか。
同様に、『イノセンス』がその思想性から作品賞は敬遠されるとしても、アニメ効果、音楽に関して言えば、『インクレディブル』が『イノセンス』より優れているとは言い切れないと思う。「インクレびいき」が、『イノセンス』の評価を総体的に貶める結果になってるんじゃないかといささか腹立たしい気持ちにすらさせられてしまうのだ。
CGアニメーションの進化を認めるに吝かではないのだが、それでも生身の人間の「感情」を表現するのにCGキャラクターは「余白」がなさ過ぎる。それに気付かずにCGアニメに馴らされてしまっているアメリカ人の鈍感さでは、商業アニメ以外のアートアニメーションの表現力は決して理解できないのではないだろうか。
さて、そしていよいよ残るは「本命」アカデミー賞であるが、これも十中八九、『インクレ』が受賞するだろう。対抗馬の『シュレック2』『シャークテイル』だが、前者は敵としてはお話にならないくらい寒々とした出来映えで、後者は未見だが予告編を見る限りではやはり二歩も三歩も後塵を拝しているように思われる。
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02月01日(火)
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