ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491676hit]
■女になって出直せよ/『DEATH NOTE(デスノート)』4巻
「どうするんですか、ずぶ濡れになっちゃったじゃないですか!」とやはりハカセ口調の私がしげに文句を言うと、しげ、「だいじょーぶ。ちゃんと乾かすところあるから」と言って、また別のフロアにま連れて行く。
そこはいくつものエスカレーターが風船のようにつやつややとしたオブジェと明滅するネオンに囲まれた幻想的な空間で、しげはその一つに乗れと言うのである。私が躊躇していると、しげ、嬉しそうに「怖いの?」と問いかけてくる。もちろん、今の私はハカセなので、怖くて仕方がないのだ。しかし、このまま立ち往生しているわけにもいかない。よく見るとエスカレーターの隣にはあのダスターシュートがまたあって、しげはまたそれに乗ってサッサと昇って行きそうな気配なのである。
意を決して、エスカレーターに乗りこんだ途端、四方のオブジェがゆらゆらと揺れながら私に迫ってきた。
「イマカラ、アナタヲ、ケンエキシマス」
どこかから、無機質な機械音のアナウンスが聞こえてくる。それと同時にプシューッ!と音がして、なんだかねばねばした液体が全身に浴びせかけられる。身体を乾かすどころか、余計に濡らしているじゃないか、と思ったが、どうやらこれは消毒液らしい。なんか病気持ってたのかハカセのからだ。
ともかくそのあとようやく身体を乾かしてもらえた。そのままエスカレーターを昇っていくと温風が吹くのと同時にでっかい羽毛が迫って来て、私のからだを優しく撫でてくれたのである。ようやく頂上が見えてきて、例のネオンのコスプレのねーちゃんたちが出口付近に並んでいて、「いらっしゃいませ〜!」とニコヤカに迎えてくれる。
やれやれ、これでやっと降りられる、とホッとしていると、ねーちゃんの一人が突然、「はい、見事にカップル成立でーす!」と言って、手に持った鐘をガランガランと打ち鳴らした。
「え?」と思う間もなく、私の(ハカセの)からだはポン、と投げ出されて、ベッドだかイスだかよくわかんない、プラスチックの器のようなものの中に放り込まれた。ハッと気付くと、隣には禿げた中年のオヤジがニヤニヤしながらこっちを見つめているのである(男子禁制じゃなかったのかよ)。どこかで見た顔だ、と思ったら作家の田中芳樹にそっくりなのだ。
「かかかか、かっぷるせいりつって、どどどど、どういうことですか?!」と目をシロクロさせている私にお構いなく、田中芳樹もどきは私に熱い視線を向けてくる。いや、今確かに私はハカセの身体の中に入っているからオンナになっているのだけれども、心はやはり私でオトコなのであって、カップルなんぞとんでもないのであって、と言いたいのだが、身体が震えて声も出ない。回りのねーちゃんは、「どうしたんですか? ここは“そういうところ”なんですよ?」と私を責め立てる。ふと向こうを見ると、しげもやはり中年のオヤジに迫られてるんだけれど、それがなんかいい雰囲気になっていて、まんざらでもない顔をしているのである。
アンニャロメと思った瞬間、ようやく身体が動いて、私は外に飛び出した。よく見るとそこは野球ドームで、あちこちに出口がある。引っ越しの手伝いはどこへやら、私はほうほうの体で、そこから逃げ出したのであった。
この夢には続きがあって、実はこの場所、よしひとさんの引っ越し先でもなんでもないのであった。道理でよしひとさんの姿が見えなかったわけである(それ以前に、アミューズメントパークに引っ越しするわけがない)。
翌日、今度はホントによしひとさんの引っ越し先にしげと出かけていったのだが(夢のフシギなところで、しげがあの後中年オヤジとどうなったかについては、私は全然気にしていない)、そこはまだ骨組みだけで、まだ家自体、建ってはいなかった。ジャングルジムのような鉄骨の横の敷地では、水道がまだ完備されていないのか、地面から水が幾筋も噴水のように吹き出ている。
そのへんの石に座って鼻歌なんぞ歌っていたよしひと嬢を見つけて、私は昨日のいきさつを逐一語って聞かせた。「ふーん、そんなおもしろいことがあったんだ」と、よしひと嬢はまるで他人事である。
おもむろによしひと嬢がつぶやいた。
「で、あなたはけいちんさんなの? ハカセなの? どっち?」
[5]続きを読む
11月03日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る