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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■入院顛末2・ブラッククイーン?
担当の医者は女医さん。これまで十数回の入院経験のある(誇張ではない)私であるが、女医さんに診てもらうのは初めてである。年頃はまだ20代の半ばくらいか、タレントの千秋をさらに美人にしたような感じの方で、表情もあまり動かなくて、ちょっと尖がった感じの口調も千秋に似ている。クール・ビューティーな女医さんのイメージそのまんまと言うか、『ブラック・ジャック』の「U-18は知っていた」に登場したワットマン博士のような……って、タトエ、分かりにくいか。なんとなく、「あ、あなたガンね」と簡単に告知してくれそうな雰囲気なのである。
いや、実際はそんなこと言わないけど、腹のレントゲン撮ったら、「あー、便がかなり詰まってますねー」とサラッと言ってくれたから、まあイメージはそう離れちゃいない。実にテキパキされているので、若い女医さんにあちこち触られて照れるとか嬉しいとか、そんなこと感じてる余裕もなかったのであった(^_^;)。
父が戻ってきたちょうどその時に、胃カメラの結果が出た。
女医さんが、赤黒くて引き攣れた胃の内壁の写真を見せながら、「かなり出血してますねー。嘔吐の原因はこれでしょう」(千秋の声で読んでね)と説明する。
父は写真を覗きこんで、「こりゃひどい!」と言って私を脅そうとするのだが、ついうっかりと「初めて見たけど」と付け加えてしまったので、脅しにならないのであった。
「食中りかなんかじゃなかったんですか?」
「こういう潰瘍は、普通、ストレスによるものです」
私にストレスを与えてるものと言えば、こりゃもう、アレとアレしかないよなあ。
女医さん、またまたサラッと「たまに脳に疾患があって、嘔吐を催すこともありますから、CTスキャンもしておきましょうか?」と言う。「脳に疾患」って、親父よりよっぽど怖いことを言うてくれてるのだが、まあ、これまで誇張でなく死にかけたことが何度となくある身にしてみれば、こんなふうに単刀直入に言ってくれる先生の方がむしろ気持ちがいい。これまで、いい医者、悪い医者、すごく悪い医者、とてつもなく藪な医者と、いろんな医者に当たってきたが、どうやらいい医者に当たったようである。
父ともども「お願いします」と頼む。
父は、しげが下着しか持ってきていないことを知ると、「もう少し気が利くかと思うとったばってん」と軽く溜め息をついた。
「気が利くわけないやん」と私が苦笑いすると、父は「そういうのをお前が選んだん_けんしゃあないたい」と、いつぞやも言っていた言葉を繰り返した。
「今日はもう、しげさんは来んとや?」
「夕べ寝てないから、あとは寝るって」
溜め息ばかりを父につかせたいわけではないが、そういう返事しかできない。気がついたら私も溜め息をついている。
「湯のみくらいは買うてきちゃろう」と言って父は売店に向かったが、湯のみだけでなく、お茶の「伊右衛門」も2本、買ってきてくれた。ヨメより男親の方が気が利いているというのも滅多にあるこっちゃない。
父は、帰りしなにポツンと「ストレスか」とつぶやいたあと、「まあ、俺はお前たち二人が仲良くやってくれたらそれでよか」と俯いたまま出て行った。
台風が近づいていて、外はまだ夕方にもならないのに暗かった。もしかして夕方からしげが来るかもと、ほんの少しだけ期待したが、もちろんそんな期待が報われたことはないのである。
CTスキャンの結果も異状なし。ホッとしたけど、つまり病気の理由はやっぱり「ストレス」のみってことだな。……コラ、そこのストレスの原因、そこんとこちゃんと自覚してるのかよ。
09月06日(月)
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