ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491678hit]
■父の引退と恍惚
どうやら、以前、姉が店を継ぐ時に、姉自身が「親戚の人に、店ば乗っ取ったって言われんやろうか」と気にしていたのを、私が「別にいいやん。言わしときぃよ。何なら店の権利だけやなくて、土地の権利も姉ちゃんに譲渡しとけばいいっちゃない? 僕は要らんから」と言っていたのを勘違いしているらしいと思い当たった。父もだいぶボケてきているのである。
「別に姉ちゃんになら、乗っ取られても構わんめぇもん。もともと店ば譲る気でおったっちゃろうが」
「ばってんが、お前に少しくらい財産ば残しちゃりたいけん」
「要らん。自分の財産は自分が生きてるうちに使いきりゃよかと。ぼくに残せるおカネがあるなら、旅行でも遊びでもお父さんの好きなことに使いい。棺桶の中までおカネ持ってっても、しゃあなかろうもん。葬式代だけ残しといてくれりゃそれでよかて」
「葬式代も残しきるかどうか分からんぞ」
「だったら職場から借金するけん、気にせんでよか。だいたい自分の死んだあとのことまで心配したっちゃ、どんこんならんめぇもん」
「……そりゃそうたい」
「仮に姉ちゃんが騙して店ば乗っ取ろうとしとったとしても、それで何が困るね? お母さんとか、親戚にずっと騙されて騙されて、騙されとうてわかっとってもわざと騙されてやって、それでもよかて思ってやっとったやない。馬鹿でよかて、それがうちの血筋やろうもん」
「……わかった。俺も年やな。こげん気が弱くなるとは思うとらんやった」
「年取って気が弱くならんわけなかろうもん。ぼくも病気のときは仕事なんてしとうもない、世の中どうなったってかまわんて思うもん」
「そうやな。お前と話して気が楽になった。今度またゆっくり話そうや」
父の気持ちが吹っ切れたのかどうだかはよく分らないが、電話はともかくそれで切れた。姉が父の疑心暗鬼通り、本当に店の土地の権利まで狙っていたとしても、私にしてみれば相続税だの固定資産税だの、面倒な手続きや支払いをする手間が省けて助かるくらいのものである。でも、姉のほうはどっちかと言うと、資産税だけ私に払わせて、店の経営を続けていった方が楽なんじゃなかろうか。まあどっちでも姉の好きなように決めればよいことである。
しかし、父と話していて自分でもつくづく感じたことだが、私は根っからペシミストであるようだ。土地とか遺産とか、いや、親子の絆そのものを一切信用していない。というか、嫌っているのだ。父はこれが私からの事実上の「縁切り」であることに気付いていたかどうか。
久方ぶりに、小林よしのりの『新ゴーマニズム宣言』に関する話題。
例の『脱ゴーマニズム宣言』を著した関西大講師の上杉聡が、「作品の引用をドロボー扱いされた」として名誉毀損で小林・小学館双方に約720万円の損害賠償などを求めた訴訟の上告審判決である。
本日、最高裁第一小法廷では、名誉棄損の成立を認めて250万円の支払いと謝罪広告の掲載を命じた二審判決を破棄して、上杉さんの請求を退ける再逆転判決を言い渡し、これが確定した。
以前、上杉さんの『脱ゴーマニズム宣言』を著作権侵害だと小林さんが訴えた別の訴訟では、マンガを引用したこと自体は適法、との判断が下され、カット1点の配置変更のみが著作権侵害と認められた。そのため旧版の出版差し止めと慰謝料20万円の支払いは行われたが、「改変のない原典のままの引用」に改訂された『脱ゴーマニズム』の再発行は行われた。形の上は小林さんの勝訴ではあるが、「マンガの引用権そのものが認められた」点では、実質的に上杉さんの勝利である(おかげで、このHPも各種作品の引用を“そのまんま”行えてるのである)。
[5]続きを読む
07月15日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る