ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491706hit]
■買ったからには見まくるぞ/DVD『七人の侍』『赤ひげ』『蜘蛛巣城』『姿三四郎・最長版』
この「待つ」ということが今のオトナにはできないのだね。患者に触れ、彼らの心を知ることができれば、自然に自分のすべきことは知れるものだという信念と、若造への信頼がなければ、「待つ」ことはできない。オトナがオトナになりきれないのは、つまりは自らを信じることすらできなくなってるからではないのか。
……なんだか青臭い教育論になりそうだからこのへんでやめるけど、説教するだけが能じゃないよなってことは言えるのではなかろうか。
あともう一つだけ。食事のシーンで去定と森半太夫、保本が三人並んで食事を取るシーンがあるが、これ、『家族ゲーム』で森田芳光がやってた手だなあ。もちろん先にやったのは黒澤さんのほうなので、また私の中で森田芳光の評価が低くなってしまった。
DVD『蜘蛛巣城』。
説明は要らないだろうが、シェークスピア『マクベス』の時代劇版である。
最初劇場で見たときにはセリフが割れてて殆ど聞き取れなかったんだけれど、ノイズが取り除かれて音声もシャープになり、日本語字幕もつくので随分見やすくなった。
今見るとまさしく舞台を意識してる演出をしてるな、と判るのは、殺人のシーンが殆ど省略されているからである。城主・都築国春を鷲津武時が殺すシーンも、盟友三木義明を家来に暗殺させるシーンもみなカット。けれどこれは鷲津が自らの罪から目を逸らし続けたことの象徴でもある。結局彼は身分不相応な野心に身を滅ぼした、哀れな小さな人間に過ぎないのだ。
もともとの舞台がそういう脚本になってるのだから、日本に舞台を移しているとは言え、これは原典に忠実な映像化と言えるだろう。
昔見たときには気付かなかったが、チョイ役で「蜃気楼博士」井上昭文や、「コロンボ」小池朝雄、「ムーミンパパ」高木均などが出演してたのを見つけるのも楽しい。
DVD『姿三四郎』。
ご存知の方も多いと思うが、黒澤明のデビュー作である本作の完全版は今のところ存在しない。戦後の再映時に、上映時間の制限を受けてネガからカットされ、そのまま紛失してしまったのだ。カット部分は二十分に及び、その部分は現在、字幕で解説されている。
以前から「海外には日本映画の失われた作品が埋もれているのではないか」というウワサはたびたびあった。しかし、それがどこにどういう形で残されているかは皆目見当がつかなかった。ところがソ連邦が崩壊したことがこの「失われたフィルム」探索に一筋の光明をもたらしたのである。
戦時中に満州からロシアに移送されたフィルムの中に、『姿三四郎』の編集版があり、そこに日本版にはないシーンがいくつか発見されたのだ。今回DVD化されたのは、そのカット部分を復元、挿入した、現時点における「最長版」である。
残念ながら、あまりにも有名な、猫が飛び降りるのを三四郎が見て、投げられても着地する方法を思いつくシーンは今回も発見されなかった。このシーンを亡母は当然見ていて、生前見ていることを自慢して、私を悔しがらせていたものだったが。
川崎のぼるのマンガ、『いなかっぺ大将』で全く同じエピソードが披露されるが(そのときの猫がニャンコ先生)、これはもちろん『姿三四郎』へのオマージュである。
今回の復元シーンで最も長いのは、月形龍之介演ずる檜垣源之助が、村井半助の娘・小夜(原作の乙美に当たる)に言い寄るシーン、父親の半助に婚約を取り付けようとするシーンである。これがないと、三四郎との三角関係がはっきりしないよなあ。全く、このシーンの復活は実に喜ばしい。
村井半助を試合で傷つけてしまった三四郎は、小夜の誘いにも「顔向けができない」と会おうとしない。このシーンも今回の復活。とか何とか言いながら、次のカットでちゃっかりと小夜と一緒に歩いているのだから、カタブツなようでいて小夜に惹かれてしまっている三四郎の純情さ、かわいらしさがここで強調されることになる。こういうユーモラスなシーンは、やっぱりカットされちゃ困るね。
せっかくこれだけ復元されたんだから、東宝、リバイバル上映くらいしたらどうか。そういう発想がないから、この国では映画文化がいつまで経ってもマトモに評価されないんである。
12月17日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る