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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■勲章って文学賞じゃないでしょ?/舞台『父歸る』(見てないけど)/『鉄人』1・2巻(矢作俊彦・落合尚之)
 しげは、今日は鴉丸嬢に誘われて、芝居の鑑賞。
 何でも、もともとは鴉丸嬢のお母さんがお友達と行くはずだったのが急遽キャンセルになったのだとか。
 帰宅してきたしげに「何見てきたん?」と聞いたら、「『父歸る』だよ」と答える。
 「そりゃえらく古いのやったなあ、主演誰?」
 「米倉斉加年さん」
 「米倉さんか、そりゃ見たかったな。結構よくなかった?」
 「うん、まあまあ」
 俳優であり作家であり画家(御本人の弁によれば「絵師」とのこと)である米倉さんは、福岡市の出身である。役者としても私はNHKの『明智探偵事務所』の怪人二十面相などは大好きなのだが、描かれるイラストも大好きだ。以前から郷土に根差した活動をされていて、同郷の幻想作家である夢野久作の角川文庫版カバーを担当されているのも米倉さん。あのグロテスクだが繊細な画風に魅了されて『ドグラ・マグラ』を手に取られた方も多いのではないか。
 古代における在日問題を扱った米倉さんの絵本、ボローニャ国際児童図書展グラフィック大賞を受賞した『多毛留』は私のフェイバリット絵本の一つであるが、あれこそオトナのための絵本であろう(もちろん子供に読ませてもいいと私は思ってるが、躊躇するオトナも多かろうなあ)。

 「で、芝居はどうだった?」
 この質問にはちょっと注をつけねばならないところだ。別に筋を聞きたいわけではなくて、どんな演出だったかを聞きたかったのである。『父歸る』のストーリー自体はあまりにも有名である。たとえ実際にこの芝居を見たことがない人でも、これの影響を受けた作品にはどこかで必ず接しているはずだ。戯曲にとどまらず小説、映画、マンガ、アニメと、恐らくその数は百や二百じゃすまないだろう。一番影響を受けたのは言わずと知れた『男はつらいよ』シリーズ。あれはつまり「父帰る」ならぬ「兄帰る」なわけだ。……あ、あれだけで48本か。ヘタすりゃ模倣作、万を越すんじゃないかな。全く日本人マンネリが好きだよなあ(^_^;)。
 人口に膾炙したという点では『金色夜叉』や『湯島の白梅(婦系図)』を越えてんじゃないかってくらいなんだから、もういちいち詳しい筋は書かない。ナカミを知りたい人は古本屋で文庫を探しなさい。
 「○○(鴉丸嬢の本名)と一緒に笑ったよ」
 「どして?」
 「最後にオヤジが出てくやん」
 「うん」
 「芝居が終わって二人でおんなじこと考えてたんよ。『あのオヤジ、今頃川に飛びこんでんじゃないか』って」
 ……まあ、確かに父親を追いかけるまでタイムラグがあるしなあ。家族会議してるヒマがあったらさっさと追いかけりゃいいのにってのはあるんだけど、それじゃドラマの泣かせどころがなくなる。
 第一、あのオヤジは「寅さん」の原型である。寅さんが自殺するようなタマか。どんなに傷ついたって軽々しく「死ぬ死ぬ」なんて言わないのが庶民の矜持ってものだ。だからこそ家族も「万が一にも」と追いかけていけるわけで、本当に死ぬような情けないやつなら、勝手に死なせときゃいいのだ。
 しかしこんな感想じゃ、芝居の演出が雑で感動が伝わらなかったのか、しげたちが鈍感で演技の機微に気付かなかったのか、判別がつかない。二人の性格からしてこういうベッタベタな人情モノにツッコミ入れたくなる気持ちも分らなくはないのだが、別に私ゃしげや鴉丸嬢の「願望」を聞きたいわけではないのだ。もちっと「誰にでも通じるコトバ」というものを考えてほしいものである。
 「で、二本立てであともう一本あったんよ」
 「何?」
 「『二十二夜待ち』」
 「それは見たことなかったなあ。作者誰だったっけ?」
 「えーっと、木下か山下か……」
 「ああ、木下順二か」
 「いや、違う」
 「じゃ誰?」
 「木下か山下」
 「それじゃわからん! ……もういいや、ネットで探す」
 で、もちろん作者は木下順二だったのである。やっぱり、しげの記憶ってアテにならないんだよなあ。
 ちょうど、米倉さんのホームページ「まさかね見世」にこの芝居の解説が載っていたので、読んでみる。

 ◆菊地寛作『父歸る』/出演◆佐々木良行、助川汎、若杉民、助川美穂、南風洋子、米倉斉加年

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11月04日(月)
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