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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■東京曼陀羅/「ミステリー文学資料館」ほか
 「所詮、『ゴジラ』は『ゴジラ』なんだしなあ。唐沢さんも『一作目だってB級映画』って言ってんだし」
 「あそこに集まってる連中って、なんであんなに世界が狭いの?」
 「あれだからSFファンが嫌われるんだよなあ」
 どっちがどっちのセリフかは勝手に想像して下さい。結局は同じだし。
 セリフだけ読んでると貶してるように見えるだろうが、「若さゆえの過ち」を微笑ましい気持ちで見ているのである。誤解なきように。


 駅の地下のレストランでモーニングのサンドイッチ。
 こうたろうくん、しげのことを心配して、「怒ってないかい?」と聞いてくる。「怒ってるよ、カンカンだよ」と答える。こうたろうくん、恐縮して、「なにか土産を買って上げないとなあ」と言うが、別にそんな気遣いは無用なんだがなあ。しげは私とくっついてない限り、誰に対しても嫉妬してしまうので、そんなん気にしてたら、とても身が持たないのである。ほっときゃいいのだ。
 食事のあと、電車を乗り継いで要町で降りる。東京の路線は、離れて随分経つので、もうなんだかよく解らん。到着は10時20分。
 目的の「ミステリー文学資料館」は、光文社の一階にあった。
 土曜は玄関のシャッターが閉まっているので、脇から一度地下に降りて、警備員室で名札をもらって一階に上がる。名札をもらう際に記帳をするのだが、前に来館した人が9月28日の日付け。そんなに利用者少ないのか。
 中はきれいだが、図書館というよりは図書室、という感じ。ミステリ関係の資料だけなので、そんなに面積は必要ないのだろう。
 受付で会員登録をする際、こうたろうくんがねーちゃんに「こいつ(と私を指差して)、わざわざ福岡から来たんですよ」とバラす。「わざわざ言うなよ、恥ずかしい」と怒るが、どうせ会員登録の欄に住所は書いてるのだから意味はないのであった。
 横溝正史生誕百年記念展示は、図書室の一角を区切った形で、『八つ墓村』や『仮面舞踏会』の生原稿や、『本陣殺人事件』の掲載された『宝石』の松野一夫のイラスト、遺品の鉛筆や虫眼鏡、各種出版物の表紙や、正史や乱歩をはじめ、探偵作家たちの若き日の写真などを、狭いスペースに押しこんだようにして飾っている。
 執筆の道具と言えば当然万年筆、と思っていたのに、正史ははるか昔から鉛筆で原稿を書いていたようだ。改稿癖のある正史ならでは、という気がする。
 こうたろうくんが正史の写真と松野一夫描く金田一耕助のイラストを見て、「ああ、金田一ってやっぱり正史自身だな」と言う。確かに、写真と比較すると、和服姿の正史の印象は金田一そのものである。そして正史は常田富士男にクリソツなのである。やっぱり映画『本陣殺人事件』のとき、常田富士男に金田一を演じさせればピッタリだったのだ。なんで世間は石坂だの古谷だのって言うかなあ。原作読んでないんだろうな、やっぱし。

 図書室の方に移り、『新青年』や『宝石』などの、昔懐かしき探偵小説雑誌がズラリと並んでいるのを見てクラクラする。
 欠本も多いので必ずしも充実しているとは言いがたいが、それでも現実に戦前戦後期の雑誌にあたれる機会なんて滅多にない。埃に咽ながら、片っ端から目次拾い。
 今回の目的の一つに、徳川夢声の小説を渉猟しようということがあった。カツベン師として有名であった氏の小説を、私は今まで『オベタイ・ブルブル事件』と『ポカピカン』の二作しか読んだことがなかったのだが、先日、唐沢俊一さんが『ポカピカン』を朗読したことを知って、他の作品も読みたくなったのである。ところが、雑誌にあたってみると出るわ出るわ、余芸どころの話ではない、優に全集が編めるほどの作品がゴロゴロと出て来るのである。エッセイも含めればその数は膨大な量になる。とてもちょっとコピーして、というわけにはいかない。そうそうに夢声探索は諦めて、気になる記事や、単行本収録が難しい作品などを博捜する。これはとても1時間や2時間で終わる仕事ではない。こうたろうくんに恐る恐る尋ねる。
 「なあ、いちんちここにいていいか?」
 「俺を誰だと思ってるんだよ」
 頼もしいなあ。

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10月05日(土)
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