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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■何が最悪?/アニメ『NARUTO ナルト』第1話/『愛人(あいするひと)』2巻(吉原由起)/『番外社員』(藤子不二雄A)
 はい、主人公の大学生・咲子さんが、妻子のいる千冬先生の押しかけ愛人になったものの、お堅い先生はチュー以上のことはしてくれない。その間、なんと先生の弟の夏生くんと関係を持ってしまい、でも、そのテクニックに堪能して(するなよ)、「センセとHできるまで練習しましょ」と弟くんとの関係を続けることにした、というのが第1巻の内容でしたねー。
 で、今巻はというと、ついに咲子さんと夏生くんとの関係が千冬先生にバレました。怒った先生はいままで抱こうとしなかった咲子さんに無理やりナニをしようとします。「プライドを傷つけられたのが許せないだけでしょ!」と抵抗する咲子さん。そこで先生は告白します。「許せないさ! 私は君を愛しているのだからな!」
 ついにお互いの気持ちを確かめあった二人。これで二人もハッピーエンド(なんか勝手にやってなさい的な終わりだけど)か……と思いきや。
 「先生、ヘタだから、夏生くん、これからも練習台になってね」
 ……あ〜、のけぞっちゃいましたね。Hのことしか考えないキャラ描かせたら吉原さんが天下一品だということは、前作『ダーリンは生モノにつき』読んでてわかってたつもりだけど、ここまで男を翻弄するキャラを描かれるとは思ってもみなかったなあ。
 女が男に言ってはいけないセリフの第1番に挙げられるのが「ヘタクソ」であることは自明である(そうか?)。創作の中でそのセリフを吐く者は概して、男を弄ぶ悪女として描かれることが常であった。ところが吉原さんはその常識をいとも簡単に覆してしまったのだ。
 最愛の人と最高のHをするために、他の人と練習する(しかも相手はその人の弟)、こんなのが「かわいい女」として成立させられるなどとはねー、十年前だったら考えられなかったねー、これも時代かねー。
 いや、それが可能だったのは、ひとえにこのヒロインの咲子が「バカ」だったからだろう(^o^)。無自覚に二人の男を手玉に取るナチュラルさというか野性というか、もうこの話の根幹を流れている「思想」は、全くもって「バカには勝てない」なんである。ご大層なイデオロギーも、胸を打つ熱い涙も、未来に向けたメッセージもくそ食らえ、男と女はナニじゃあ! という身もフタもない真実を、山上たつひこかどおくまんが描くならばともかくも、繊細な少女マンガのタッチで、吉原さんが描いちゃうのである。この威力には勝てないよ(^_^;)。
 ホントの兄弟をホントの「兄弟」にしてしまう強引な展開が、まさしく吉原コメディの真骨頂なのだろう。
 ……でもまさか次の3巻じゃ、千冬先生の奥さんが出て来て四角関係になるとか、ありがちな展開になっちゃうんじゃないかと、それがちょっと心配。

 
 マンガ、藤子不二雄A『ブラックユーモア短編集 番外社員』(中央公論新社/コミック・スーリ・ChukoコミックLite・300円)。
 愛蔵版にはなぜか収録されなかった『番外社員』シリーズ。初出は1973年の『劇画ポスト』というから、もう三十年も前なのだけれど、Aさんも脂がノリにノリきっていたころの作品である。
 会社をユスってきたヤクザの応対をして麻雀勝負をするとか、結婚間近な社長の息子の愛人に、手を切らせる交渉とか、ライバル会社と、ある原材料を巡っての権利をゴルフ勝負でケリをつけるとか、要するに「表ではできない」ウラを専門に引きうけるのが主人公の仕事なのである。
 「黒イせえるすまん」こと喪黒福造もこの系列のキャラクターではあるけれども、セールスマンと言いつつも、どこかの組織に所属しているようにも見えず、ただひたすら不気味な喪黒に比べると、本編の主人公、番外大五郎は番外とは言えやはり組織に所属する人間なのである。任務に失敗すれば即お払い箱という厳しい立場にある以上、いくら彼が完全勝利をし続けていても、なにか手放しでは喜べない、今一つカタルシスを感じ切れない恨みがあるのだ。彼がもう少し自分を陰で使う専務に対して、その知力で反旗を翻すようなところを見せてくれていたら、藤子A版「蘇える金狼」みたいに面白くなったかもなあ、と思うのだが。

10月03日(木)
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