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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■范文雀はプロレスラー!?/『のーてんき通信 エヴァンゲリオンを造った男たち』(武田康廣)
役者として演技力はあるし、幅の広い人だったとも思う。なのにその実力を生かす役に恵まれてはいなかった。ピラニア軍団の中では、川谷拓三はドラマで主役を張るほどに「出世」したが、本来、室田さんがそのあとに続くべきではなかったか。悪役・脇役に留まらない存在感が確実にあったからだ。
なのに、映画での使われ方は主役の「引き立て役」以上の役が与えられない。代表作のように言われている『仁義なき戦い』シリーズをまともに通して見たことがないので、何とも言えないが、ほかの『白昼の死角』『影武者』『マルサの女』と言った作品も、室田さんが何の役で出ていたのか、すぐには思い出せないのだ。
今、思い出せるのは『魔界転生』の宝蔵院胤舜。魔界衆の一人だと言うのに、何ら見せ場を作る所がなくやられていた。あんな役なら出す必要もないだろう、というくらいの軽い扱いである。
『悪霊島』などはもっとひどい。室田さんが演じた磯川警部は、原作では「磯川警部自身の事件」と言ってもいいくらい、重要な役割を担っている。なのに映画ではただの刑事役に格下げされて全く見せ場がなかった。
重要な役でも、室田さんが演じるとなると、役が小さくされてしまう。アクが強過ぎて監督たちに嫌われてるんじゃないか、と邪推したくなるくらいである。室田さん自身はそのことをどう考えていたのだろうか。
武田康廣『のーてんき通信 エヴァンゲリオンを造った男たち』(ワニブックス・1470円)。
今でも覚えているのは、ガイナックスが『王立宇宙軍』を製作している最中に、宮崎駿が「アレは若い人たちがバンダイを騙して作ってるんです」とかなんとか『アニメージュ』にコメントを寄せていたことだ。宮崎さんはほかにも「まさかアニメーターでメカや爆発は描けても人間が描けないやつがいるとは思わなかった」とか、庵野秀明さんを想定して揶揄したりしている。
宮崎さんの韜晦癖を知っている人には、これが遠回しな援護射撃であることはわかるだろう。「DAICON」オープニングアニメなどで、その実力はオタクにこそ浸透していたものの、世間的には、全く無名の新人たちがいきなり8億の巨費を投じて長編アニメを作ったのである。ヒットする保証はどこにもない。しかし、成功しなければ、彼らに未来はない。
当時、『アニメージュ』は『王立宇宙軍』に破格のページを割いていた。人気アニメーターの新作や声優がらみならばともかく、このようなことは異例だったが、恐らくそこにも宮崎駿の「押し」があったのだろう。
『王立』は、当時のアニメファンに、なんとしても見ておかなければならない作品だと刷り込まれることになった。そして、『王立』で盛名を馳せたガイナックスは、その後も『トップをねらえ!』、『ふしぎの海のナディア』、『新世紀エヴァンゲリオン』というヒット作、超ヒット作を生み出して行くことになる。
著者の武田康廣氏は、ガイナックスの取締役で、ガイナックスの前身、ダイコンフィルムで『快傑のーてんき』を演じたその人でもある。
アニメ創世記ならばともかく、一介のアマチュアグループがプロダクションを作り、世界的にも最高レベルのアニメを連発することになるとは、まさに奇跡。その裏事情が読めるとなれば、矢も楯もたまらず飛びついてしまうのはアニメオタクならば当然だろう。
モノ造りに順風満帆ということはない。
人は常に離合集散を繰り返す。それはアマだろうとプロだろうと、モノ造りに集った者たちの運命なのである。今やガイナックスの顔となった庵野秀明、山賀博之、赤井孝美の各氏も、常にガイナックスの中心にいたわけではない。自ら恃む者たちが集まれば、イニシアチブを誰がとるかという命題から目を背けるわけには行かないのである。
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06月17日(月)
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