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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ココロはいつもすれ違い/『女王の百年密室』(森博嗣・スズキユカ)
 犯人が誰か、ではない。最も理想的な犯人らしい人物は、森ミステリにあっては常に明白である。恐らく「犯人を当てる」だけなら、十人中九人がそれをアテてしまうだろう。
 しかし、では、「犯人である『彼』は何者なのか」。
 この答えに解答することは容易ではあるまい。森ミステリの探偵たちも、それを最後まで突きとめ得ぬことは往々にしてあるからだ。そして、「犯人」と表裏一体である「探偵」。主人公たる彼らもまた、自分自身に無意識のうちに問いかけることになる。「『私』は何者なのか」と。

 女王が統治する幸福な楽園。
 不満や恨みのない世界でなぜか起こった殺人事件。
 「SFミステリ」の体裁を取っているために、従来の森ミステリが嫌いだった人も、余計なハードルを越える必要はないだろう。
 ここでは「どんなトリックも神の名のもとに可能」なのだ。殺人事件の、密室の謎を解く必要はない。そんなものは「どうにでもなる」。
 読者が思い致せばいいのは、主人公サエバ・ミチルの秘めたる思いにであり、マイカ・ジュクの警句に込められた思いにである。彼はミチルが「神に導かれた」と言い、「女王」もまた、旅人であるはずのミチルの名を「神のお告げ」によって知っている。
 「神」とは何かを推理しても、それは意味がない。もちろん、その答えがラストで明かされはするが、それ以外の何10通りの解決だって、読者は想定し、作者が提示したもの以外の答えを自分が信じたところで全く構いはしないのだ。
 「僕は生きているのだろうか? まあだいたい生きてるってとこ? 悪くはない。悪くはないよ」
 ミチルの、最後のこの痛みをともなった言葉を噛み締めることが、森ミステリを味わう一番の方法だろう。多分我々も「だいたい」でしか生きてはいないのだから。
 

 しげ、8時過ぎに帰宅するなり、また出かける準備を始める。
 「……どしたん? 今日は仕事なかったんやないんか?」
 「……うっかり電話取ったのが失敗……」
 しげ、眉間にシワを寄せて、いかにも口惜しそうな、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
 どうやらリンガーハット、急な欠員が出て、助っ人をしげに頼んできたらしい。せっかくの眠る時間がなくなって、しげ、本気で臍を噛んでいるのだ。
 「リンガーハットからの電話は取っちゃいかんね!」と吐き捨てるように言う。でも電話に出た時点で「負け」だわなあ。

 実は私も、休日、職場からあった電話は取らないことにしている。
 それで大事な仕事だったらどうするんだ、と非難されそうだが、実際に電話に出てみると、たいした用事でもないことが圧倒的に多いのだ。
 いっぺん、電話に出ずに、次の日になって誰かから何か言われるかと思ったら、全く何も音沙汰がなかったので、私の頭の中では、「職場からの電話は休みを邪魔するイヤガラセ」としか受け取れなくなった。
 ……いやね、ほかの同僚が休んでる時も明らかに「イヤガラセ」の電話してるとこも、何度も目撃してるのよ。人間性で言えばサイテーの部類に入るヤツってゴロゴロしてるもんでね。
 本当に大事な用事なら、間を置いてでも二度、三度と電話をしてくると思うんである。それがない以上、わしゃ、休日の電話には絶対に出んぞ。第一、休日に私が家にいる、と思いこんでるのはどうしてだ。


 俳優の加賀邦男さんが、7日に心不全で死去。享年88歳。
 特撮ファンには『仮面ライダーV3』の風見志郎の父親役で有名であろう。
 ……って、何シーンも出とらんわ、そんなん(ーー;)。
 けれど、ついそんなのを例に出さなきゃならないくらい、脇役が凄く多い人ではあったのだ。かと言ってヘタクソってことはなくて、往年のオールスターキャストの映画の中でも、割り当てられるのは重厚な役が多かった。
 訃報の記事には『大菩薩峠』あたりを代表作としてあげているが、調べてみると、役は米友。……内田吐夢版だよなあ、片岡千恵蔵が机龍之助の。米友ってのは心優しい槍の名手の役なんだけど、加賀さんだったかどうか記憶にない。もちっとましな紹介、できなかったのかなあ。

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01月08日(火)
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