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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ヒマなし貧乏/『学活! つやつや担任』A(吉田戦車)ほか
 7、8歳くらいのガキンチョが近寄ってきて、いきなり「これ買って」と言ってきた。もちろん、見知らぬガキである。
 「自分のおカネで買おうね」
 といったら、プイと横向いてあっちに走って行った。
 どうやら同じマンションの子供らしいが、こっちのことを知ってて声をかけてきたのだろうか。マンションには幼馴染の友達も住んでるが、そいつの子供ではなさそうだったし、なぜ私に声をかけてきたのか腑に落ちない。
 まあ、親の躾が悪いだけかな、と思って納得すればいいだけの話である。
 ……ふと、自分のセリフを思い出して、はっとする。
 普通、こう言う時は「お母さんに買ってもらいなさい」とか言うんじゃないのか。しかし私は、小学生に向かって、はっきり「自分で働いたカネで買え」、という意識で喋っていたのである。お小遣い、なんて感覚は全くなかった。
 親に、骨の髄まで職人根性を叩き込まれているのだ。自分が会社人間になれぬ理由が納得出来たような気がした。……因果なもんだなァ。
 
 女房がいつの間にか吉田戦車のマンガ、『学活! つやつや担任』A・B巻を買っている。
 この間本屋に行った時に「これ面白いよ」と勧めたんだが、あまり興味を惹かれた様子がなかったので、買わないでいたのだ。
 私だって、際限なく本を買っているわけではない。女房が読みたくなさそうだったら、買うのを断念することもあるのである。……なんだ。結局買うのならそう反応してくれればよかったのに。
 女房はよく私に「無表情で何考えてるか分らない」と文句をつけるが、女房だって人一倍無表情なので、他人から「怖い」だの「怒ってる」だの「たくらんでる」だの「思いつめてる」だの勝手に思いこまれちゃうことが多いのだ。
 ……だからマネージャーから「困ったことがあったらなんでも言ってネ」なんて言われるんだよ。
 認めたくはないが、私と女房は似たモノ夫婦であるらしい。
 
 で、『つやつや担任』A巻。
 吉田戦車の作品を「不条理マンガ」と呼ぶことにしばらく前から抵抗を感じている。安部公房を例にして言うなら、『壁』や『人間そっくり』のように、ある存在の持つ意味を揺さぶって見せるのが不条理モノの手法である。
 でも実のところ、吉田戦車のマンガにおいて、意味は常に「確定」している。つやつや担任はつやつや担任だし、犬は犬だし、下手江は下手江である(かわいくて好きだな)。紫外線の影響だか地球温暖化のせいだか、どーでもいいんだが、「無生物が喋るようになった」世界観は基本フォーマットととして機能している。たとえ根拠が薄弱に見えても、これは「SF」ではあっても「不条理」ではないのだ。
 別に吉田戦車の悪口を言いたいんじゃないんだけどね。看板に偽りありってだけの話。キャッチフレーズがほしいなら、「不条理」なんていかにも高級感を狙ったようなものじゃなくて「へんなマンガ」でいいじゃないのよ、ねえ。

 マンガ、波津彬子『唐人屋敷』。
 チャイナタウンのおはらい師シリーズ全1巻。長く続いても短くてもいいかな、という点では『雨柳堂』と同じだが、こちらのほうが長く続かなかったのは設定がありきたりだからかな。
 こちらのほうがよりユーモラスだが、波津さんの絵はもともと線が固いので、キャラクターにギャグ演技をさせようとすると、ちょうどマジメなヒトが無理にシャレを言うとシラけちゃうように、浮いてしまうのである。
 少女マンガ家は線を省略すると途端に下手になる人が多いが、これも伝統なのかなあ。

04月11日(水)
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