ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■『女性死神協会 会議中02番外編(後半)』
『試食前夜』

(四番隊・給湯室)
 最初の試作はチョコレートクッキーだった。ちょうど給湯室にやってきた卯ノ花に食べてもらった。
「あら、おいしいですよ、勇音」
「本当ですか。よかったぁ」
 卯ノ花の言葉に勇音は安心したように微笑んだ。卯ノ花も柔らかい微笑みを向ける。
「これは協会のお仕事ですね」
「はい。要望が出たらしく、みんなでレシピを提案するんです」
 勇音は今回の要望を卯ノ花に説明する。卯ノ花は黙って聞いていたが、最後に首を傾げた。
「……男性を口説くことが目的でしたら、別のお菓子の方がよろしいのではないでしょうか。素朴で暖かいお菓子ですが、口説く、という状況まで持っていけるかどうか」
「うう、やっぱりそうですよねえ」
 人生の先輩でもある卯ノ花の言葉に、勇音は考え込んだ。

 次の試作はブラウニーにした。残業の最中に給湯室の前を通りかかった伊江村を呼び止めて、食べてもらった。
「非常に美味ですよ、副隊長」
 神経質そうな顔をわずかに綻ばせて言う伊江村に、勇音は笑いかけた。
「本当ですか。ああよかった……あ、あの、伊江村三席」
「はい?」
 尋ねようとして、そこで勇音の口は動かなくなった。男性を口説けるかどうかを尋ねるのは果たしてどうなのだろう、と急に気付いたからだ。口をぱくぱくと開けたり閉じたりしている勇音を伊江村は訝しげに見ている。勇音は慌てて、
「あ、あの、その、……これを食べるとどんな気持ちになりましたか?」
と言った。言った後、その間の抜けた質問に気落ちしたが、伊江村は生真面目に首を傾げると、
「は? はあ……、そうですね、休憩にしてお茶でも、という気持ちでしょうか」
と答えた。
 首を傾げつつ遠ざかる伊江村の背を見送りつつ、これじゃだめだと勇音は項垂れた。

 更なる試作はラム酒を効かせたトリュフにした。丁度よく勇音に指示を仰ぎにきた花太郎に食べてもらった。
「すみません、副隊長。時間外にお尋ねしたばかりか、お菓子まで頂いてしまって」
「ううん、こちらこそ是非、感想をお願いしたいし」
 恐縮しきりの花太郎にトリュフを渡して、勇音はトリュフを口に入れる花太郎を真面目に観察する。花太郎はトリュフを噛み締めた途端、相好を崩した。
「……どう?」
「美味しい! 美味しいですよ、副隊長。すごく大人の味で!」
「どんな気分になった?」
「気分?」
 握り拳で感想を待つ勇音の気迫に気圧されたのか、花太郎は半歩下がりつつ、首を傾げる。
「気分……気分……、あ、そうですね。あの、こんなお菓子が作れる副隊長を尊敬しています!」
「あああ、これもだめかあ」
 脱力して座り込む勇音を、花太郎は驚いて訳も分からないままに慰め始める。

 次の試作品をどうするか、勇音が考え込んでいると給湯室の前を荻堂が前を通りかかった。
「……何をしておられるんですか?」
「あ、荻堂八席。残業ですか。夜勤ですか」
「残業が終わったところですが……副隊長が給湯室でなにやら妙だと向こうで噂になっていますよ」
 荻堂の言葉に、勇音はがっくりと項垂れる。それを見て荻堂は給湯室に入ってくると、下から覗き込むようにして勇音と目を合わせた。
「どうされたんですか。こんな夜中にお菓子作りで、質問攻めで」
 勇音は普段から寄せられている眉を更に寄せた。
「お話することはできないんです」
「ああ、まあだいたい想像できますけどね」
 そうさらりと言うと、荻堂は勇音の肩と背中に手を置いて猫背気味にどうしてもなってしまう勇音の背を伸ばす。荻堂によくされているのだが、勇音はこれをされるといつも緊張してしまうから、誤魔化すように小さく笑った。
「とりあえず、どんな気分になるお菓子を作りたいんですか」
 勇音の前で腕を組み、荻堂が尋ねる。勇音は困惑して視線を彷徨わせたが、夜中の給湯室の前を通る者はいない。どうにも恥ずかしく、勇音は消え入るような声で、
「あの……男性を口説くことの、出来るお菓子を、作らないといけないん、です」
と言った。荻堂がつうと目を細める。

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02月20日(水)
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