ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■扇
「あら、いろいろと手にして、どうしたの」
 弓親が振り返ると、乱菊がそこにいた。書類をどこかに届ける途中なのだろうか、紙の束を手にしている。両手がふさがっている弓親は、ただ頭を下げた。
「お久しぶりです、乱菊さん」
「そうねえ。そういえば、久しぶりね」
 急ぎではないのか、乱菊はゆったりと笑って弓親に近寄ってきた。そうして両手に抱えるものを覗き込んできて、そうするとさほど違わない背のせいか、乱菊の頭が弓親の目の前をかすめ、山吹色の髪からふわりと石鹸の香りが微かに立ち上る。こんな艶やかな女性から石鹸の香りとは、またそのギャップが美しいな、と弓親は思う。
「なんだか、贈り物のようね。どれも綺麗に包装されてる」
 屈めていた背を伸ばし、乱菊が言った。弓親は微笑んで頷く。
「そうなんです。今日は僕の誕生日だとどこからか知った人が色々とくださいまして」
「あら、そうなの。おめでとう」
 乱菊は大きく微笑んだ。
「あたし、そういうのなかなか覚えられなくて、遅れちゃったわね」
「いえいえ。乱菊さんのような美しい方から微笑まれるだけで僥倖というものです」
「上手ねえ」
 空いている手を腰にあて、乱菊は笑った。そして、弓親の顔を覗き込む。
「さて、弓親。あんた、急ぎなの」
「いいえ、大丈夫ですが」
「そう。なら付き合って」
 乱菊は向こうの角の店を指さした。浅黄色の暖簾のかかった、最近話題の茶店だった。
「ちょうど一区切りついてお茶したいって思ってたのよ。奢るわ。それがあたしからのお祝いってことで」
 そう言って片目を瞑る乱菊に、弓親は微笑み返した。急ぎではなくとも、暇であるはずのない副隊長。そんなことは欠片も見せずに誘う乱菊を、弓親は好ましい先輩だと思っている。


 手前の席に通されると、それぞれお品書きと睨み合って真剣に注文する。そして顔を見合わせて、おかしくなって笑った。
 他愛もない話をして運ばれてくるのを待っていると、ふと乱菊が目線を動かした。弓親もつられて動かし、目線の先を見る。
 透けた和紙に包まれた、扇だった。
「この時期に扇っていうのも珍しいわね」
 乱菊が言う。
「贈り主の彼女もそう言っていたんですよね。この時期で申し訳ないけど、僕の斬魄刀のイメージってこんな感じじゃないかって思ったら、どうしてもこれを贈りたくなって、だそうで」
「あ、そうなの」
 彼女と聞いてにやりと笑った乱菊に、弓親は苦笑いをして違いますよと言う。あんたはそうでしょうねと乱菊も笑った。
 弓親は結っていた紐を解き、和紙から扇を取り出した。開くと、白檀の香りが微かに空中に放たれた。透かしで孔雀の羽が描かれており、それは華やかで鮮やかだった。
「優雅ねえ」
「そうですね」
 片手でぱちんと閉じ、弓親はそっと和紙でくるむ。
「ただ、どうして彼女もこの時期で申し訳ないって言うのやら。まだ残暑で暑い日もなくはないのに」
 そう言って首を傾げる弓親に、乱菊はひそりと呟いた。
「秋の扇だからよ」
 中国の故事からきているのだけど、秋は涼しいから扇はもう必要ないでしょ、捨てられた女の人を表しているのよ、と乱菊は説明した。弓親は頷き、そして両手を顔の前で横に振る。
「僕は何もしていませんよ」
「分かってるわよ。だからその子もそんなことを言ったんでしょ。それに、その故事では男から女に扇を贈ってるんだし」
 そのとき、店員が盆を持ってきた。それぞれの皿と湯飲みを前に置く。
「おめでと、弓親」
「ありがとうございます」
 乱菊も弓親も茶に手を伸ばし、そこで少し言葉が途切れた。口の中に爽やかな茶の香りが広がるのを感じ、弓親は少し眼を閉じて、開けた。そして菓子を見る。
「美しい菓子ですね」
「人気なのよ、ここ」
 乱菊は嬉しげに皿を手に取る。弓親もそれにならった。
「それにしても」
 菓子を一口食べて、頷いて弓親は顔を上げる。
「それならば男性から女性に扇を贈るのは意味合いとしては微妙になりそうですね。そんな話があるのなら」
「そうでもないわよ」
 すでに半分ほどを食べた乱菊が、茶を飲んで溜息をつく。

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01月03日(木)
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