ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■30 血の誓い
『戦い』

 虚が消え去った後は、どこか爽やかな風が吹き抜ける。
 それは虚から放たれる死臭に似た霊圧が消え去るからだろうか。それともただ戦いを終えて、まだ自分の存在があることに安堵するからだろうか。
 地面に座り込み、一角は空を仰いだ。夜が明けようとしている。星の瞬きは薄く小さくなり、空は青みを帯びている。夜の闇は西の空に逃げて、東の空は白んでいる。
「血だらけだね、一角」
 声をかけられて振り向くと、弓親が鞘に収めた刀を手にして立っていた。その弓親の左肩は割け、はだけた肩もずり落ちている死覇装も血で濡れていた。一角は小さく笑い、
「おめぇもな」
とだけ呟いて、再び空を見上げた。ふふ、と弓親が笑う声がする。



『証』

「そなたらの姓は」
 書類を手にした死神にそう問われて、やちるは首を傾げた。そして剣八を見上げると、まだ返り血を浴びたままの彼も同様に首を傾げている。
「せい……ああ、姓か。そんなものは、ねえよ」
 剣八はそう答えて、やちるを片手で持ち上げるといつものように左肩に乗せた。やちるは肩にしがみつき、先程まで見上げていた死神を見下ろす。
「せいって、なあに」
 やちるから逆に問われて、その死神は面食らったように眼をしばたたかせた。そうして少し黙り込み、
「……そなたの家の名だ」
とだけ答えた。やちるは更に首を傾げる。そして剣八を見ると、その横顔は少しばかり渋くなっているように見えた。
「あたし達、家なんてないよねえ」
 やちるは小さな声で剣八の耳元で囁いた。やちるの記憶にある生活は全て青空の元での流浪の日々だ。屋根のあるところで眠ったことはあるが、定住する場所を得たことは一度もない。やちるの場所は、剣八だ。しかし、剣八は人であり、家というものではないことくらいはやちるは理解している。
 剣八はしばらく黙り込んでいたが、空いている手でやちるの頭を掻き回すように撫でると、死神に向かって、
「……姓は、更木だ。こいつは草鹿」
と言った。
「それは地名だ」
 死神は短くそう言う。しかし、その頭部を見下ろして剣八は薄く笑った。
「俺はここに来るまで“更木”の剣八と名乗ってきた。こいつは“草鹿”のやちる、だ。そう名乗ってきたんだから、これからもそれで構わねえだろ」
「う、うむ、まあ、そうだが」
 戸惑う死神を無視して、剣八はやちるに眼を向けた。やちるはじっとそのやり取りを聞いていたが、剣八が振り向くと身を乗り出した。
「いいか、やちる。お前は“草鹿やちる”だ」
 そう言って剣八はにやりと笑った。やちるは最初、ゆっくりと瞬きをし、そうして大きく笑みを浮かべた。
「うん、あたし、“草鹿やちる”なんだね」
「そうだ」
「剣ちゃんは“更木剣八”なんだね」
「そうだ」
 やちるは声を上げて笑い出した。そうして剣八の首に抱きつくと、ぐるりと剣八の正面に回る。剣八が左手でその体を支えると、やちるは顔を離して剣八を見上げ、
「草鹿やちると更木剣八だね!」
と言った。剣八は頷く。やちるはまた笑い出すと剣八の手から飛び降りて、死神を見上げた。
「あたし、草鹿やちるだよ。剣ちゃんは、更木剣八だよ。よろしくね」
 やちるはにっこりと笑った。



『試み』

 血塗れで倒れ伏す死体を一角は眺めていた。つい数刻前まで隊長だった死神と、副隊長だった死神。隊長だった死神の吐き出した血で赤い口元は、笑みの形をしている。満ち足りたんだな、と一角は思った。副隊長だった死神の顔は向こうを向いているからわからないが、きっと笑っているだろう。彼もまた、全てに飽きたような、乾いた眼をしていたからだ。

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11月30日(金)
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