ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■25 亀裂
死神と虚との境を取り払う方法を探ろうと考えついたのは、いつのことだったろう。
開かない窓から晩秋の高い空を見上げて、浦原はゆうるりと昔に思いを馳せる。高いたかい空はいつかの空と同じ青さで、そこにあった。白い雲がたなびいている。鳥が一羽、悠々と翼を広げたまま、狭い窓枠に切り取られた空を通り過ぎていった。浦原は眼を細めてそれを見送る。徹夜続きで酷使している眼に昼も間近の空は明るすぎて、浦原は右手をかざした。
尸魂界ではもう長いこと、死神の能力限界を突破する方法を模索している。
死神の能力には限界が存在することは早くから知られていた。その能力の限界を突破する理論的な方法も、比較的早期に見つかっていた。しかし、そこから先、限界を突破する具体的な方法を確立することは未だ誰も成功していない。
自分、浦原喜助を除いては。
秀でた己の能力をこれほどまでに疎ましいと痛切に感じたことはこれからも、この先もないだろうと浦原は思う。せめて研究馬鹿と呼ばれるような、他のことを全く気にせずに、気づかずにいられるような頭なら良かった。世界の矛盾にも、蠢く陰謀にも、人の欲の影にも気づかないようなら良かった。浦原はどうにもならないことをつらつらと考える。
もう、引き返せないところにいる。何もかも遅すぎた。
眼を細めたまま、浦原は身動ぎもせずに空を上げていた。人気のない、狭い研究室には動くものはない。山積みになった資料、床に無造作に転がされた様々な機器、天井を覆う管やそれを繋ぐ紐と針金、様々なものが死んだような静けさで佇んでいた。半日前まで全てが稼動していたとは思えない無機質な沈黙だった。
攫ってきた女の赤ん坊に崩玉を隠した後、全ての機器を停止させた。
浦原は窓に背を向けて、自分の研究室を眺める。遠くなった光景がぼんやりと目の前に立ち現れる。今とほとんど変わらないこの研究室に入ってきた、あの日の藍染惣右介の姿が入り口に浮かび上がる。
壊す……と、言うのかい?
あの日、藍染は珍しく驚いた表情を見せて、そのことに浦原はわずかに目を見張った。藍染は常に柔らかい物腰と微笑みで、それを崩すことは滅多になかったから。
そうなんスよ。協力してくれた藍染サンにはホントに申し訳ないんスけどね。
驚いたまま動かない藍染に、あの日の浦原は丁寧に謝罪し、説明した。確かに死神と虚との境を取り払う物質−−『崩玉』と名付けたその物質は出来上がったこと。しかし、それはどうにも危険だから、危険であることにようやく気づいたから……気づけたから、それを破壊しようと思うこと。
作り上げてから気づくってのも、遅すぎるんスけどね。
浦原は自嘲の声で呟いた。
でも、作り上げてからでないと気づけないことだったかもしれません。現実を目の当たりにして初めて、その恐ろしさに気づけることだったのかもしれないっスね。だから……壊さなけりゃならないんです。
浦原は言葉を尽くして開発された物質『崩玉』の危険性を説明した。藍染が最も労を惜しまずに浦原に協力した死神だったからだ。藍染はそれを黙って聞いていた。そして、一言、
しかし、それはあまりに勝手じゃないだろうか。
と低く呟いた。その響きの冷たさに浦原はわずかに目を見張った。
藍染は柔らかく微笑んでいた。そして真っ直ぐに浦原に視線を向けた。
危険性は判る。しかしそれは最初から判っていたことじゃないのか? 予測できないくらいに危険だったというならば、それを管理し、守る体制を作ればいいことだ。手に負えないほど危険だから破壊しようなどと、それはあまりに短絡的で愚かな発想じゃないか。君らしくないな。
浦原は、藍染の静かな言葉と共に、何かこれまで確かだったものに亀裂が走る乾いた音を聞いていた。崩玉の危険性を、性質や効果を丁寧に説明すれば藍染なら真っ先に破壊に賛同するだろうと浦原は考えていたから、予想とは酷く異なる藍染の言葉に、浦原は驚いた。しかし浦原は自分の耳を疑ったりはしなかった。藍染の様子を全身で捉え、そして藍染の奥に潜む仄暗さを初めて垣間見た。
あの日の藍染の言葉を思い出し、浦原は眼を閉じる。
あの日、藍染は静かに言った。
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11月25日(日)
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