ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■24 断頭台
己の仕事は常に人の頭を落とすことだった。
裏切り者の首を切り、逃亡者の首を切る。
刃から流れ落ちる血に手は染まり、肘までつたうその血は滴り落ちて地を汚す。飛び散った血や臓物は体に付着し、その臭いは骨まで染み込む。
それが仕事。生まれ落ちたときから定められた、職。
断末魔を聞いて、砕蜂は小さく息をついた。今夜の仕事はこれで終了した。逃亡者の追跡に時間がかかったが、それでも数日で片が付いたのだから良しとしようと砕蜂は思う。調査、追跡に携わり、尋問から最後の片づけまで終えた部下二名を振り返り、砕蜂が労いの言葉をかけると、二人は片膝を付いて頭を垂れてそれを聞いていた。刑軍に入って間もない新人にしてはよくやった、と砕蜂は率直に述べて並ぶ二つの頭を見下ろした。
「報告書は明日の夕方までで構わぬ。今夜はもう帰るがよい」
そう告げると、部下達は深く無言の礼をして、音もなく姿も気配も消した。その行方を探り、遠く離れたことを確認して、砕蜂は組んでいた腕を解いて肩を落とす。思わず大きな溜息をついて、眉間に皺を刻んだ。血と死の臭いが体中から立ち上っていたが、それに既に慣れている砕蜂はただ頬についていた血を拭い取り、指についたそれを裾で拭った。
軍団長が出るほどの仕事ではなかったはずだった。しかし、新人二名の出来を確認する程度のはずだったのが、裏を探って彼らの背後から出てきたのは死神を抜けて新たな力を求めようとしている集団だった。抹殺対象は新人に任せられる程度の者だったが、裏にいる者が出てきた場合を考えて、詰めには砕蜂も立ち会うよう指令が出された。
結局。砕蜂は闇に浮かぶ月を見上げる。結局、どんなに吐かせても何も得られず、死から少しでも遠ざかるための演技も嘘も出来ないほどに何も知らないということだけが明らかになった。対象が泣きわめき許しを懇願するのを瞳に映しながら砕蜂はその首を掻ききった。死体は部下が処理し、それを確認して『仕事』は終わる。砕蜂にはまだ『上』に報告する仕事が残っていたが、得られたことが何もない以上、すぐに終わると思われた。
月から視線を外して目を伏せて、砕蜂は頭を振ると、音もなく跳び去った。
簡単な報告を終えて隊舎に戻ったのは、もう夜明けも近い頃だった。
砕蜂は自室ではなく執務室に足を向ける。夜勤のため、常にどこかに灯りはある。気配のある席官の控え室の前を通ると、小さな話し声が聞こえる。
清潔な廊下を歩いていると、自分の体に染みついた血の臭いを感じずにはいられない。砕蜂は顔を顰めて、自分の腕を顔に近づけた。返り血は殆ど浴びていない。浴びるはずがない。それなのに、血の、気配は必ず自分の周りにまとわりついている。
慣れた。もう百年以上も繰り返していることだった。それなのに、今夜のように月の綺麗な夜には、砕蜂は血の臭いから逃れたくて堪らなくなる。そして自己嫌悪に囚われて、一人自嘲の笑みを浮かべる。
もう遠くなりつつある過去、姿を消したあの人は、こんな夜はどうしていたのだろう。
灯りのない廊下には窓から月の光が射し込み、窓枠の影がどこかへ続く出口のように床に落ちている。砕蜂は立ち止まり、窓から空を見上げた。
白い月が、欠けた形で浮かんでいた。
あの人が放棄した立場の他に、自分は二番隊隊長という役職まで手に入れた。砕蜂は大きな眼に月を映す。あの人を超えたくて、裏切って消えたあの人を超えてやりたくてそれが唯一の防衛手段で、そうしなければ崩れてしまいそうだった。砕蜂はこの百年に近い年月を思い、目を伏せた。必死で走り続けてきたけれど、それでも自分はまだ、血を浴びてなお快活に笑っていたあの人に追いつけないのだろうか。
執務室に入ると、いつも通りに大前田が立ち上がって礼をした。
「お疲れ様っした」
「…………うむ」
砕蜂は一瞬だけ動きを止め、鷹揚に頷いた。そして周りを見渡し、眼を閉じた。空気中に微かに甘い香りが漂っている。目を開くと、ソファの脇机にある一輪挿しに微妙な色合いの薔薇の花が飾られていた。砕蜂は近づくと、その薔薇に触れた。柔らかい水分を含んだ生命の質感が指に触れた。茶色のような紅色のような色をした花びらが揺れる。
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11月24日(土)
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