ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■22 奴隷
琥珀色の甘い海の底に沈み込んでいる。見上げても、遠い水面で光のようなものがきらめくのが見えるだけ。
波も、風も、光も、雨も、音も。
ここには何も届かない。
これからもう嬲り殺されるだけだ、という危機的状況にあった雛森達を救ったのは、その当時の五番隊の隊長と副隊長だった。虚を斬り裂きにその群れの中に飛び込んでいった銀髪の副隊長とは対照的に、焦げ茶の柔らかそうな髪をした五番隊隊長はその五の字を背負った広い背中で雛森達をその霊圧や流れてきた攻撃から庇っていた。
凶暴な虚の気配を完全に遮断し、安心感そのものといった霊圧で雛森達を守るその人は、雛森に振り返ると優しげに微笑んだ。その背を見上げてその笑みを向けられて雛森が安心感と憧れを持ったとしても、それは止めようのないものだった。
「雛森君」
藍染は低い柔らかな声で雛森を呼ぶ。その抑揚は穏やかで、常に一定で、雛森は呼ばれるたびに耳の奥が少しずつ溶けていくように感じる。
「はい、何でしょうか」
振り返り、雛森は笑みをいっぱいに浮かべて返事をした。藍染はいつも通り、優しく眼を細めて微笑んでいる。そして雛森の笑みを見て、僅かにその眼を細める。
「いい返事だね」
「はい。それだけが取り柄ですから」
駆け寄って、雛森は大きな角度で顔を上げて藍染を見上げる。そうすると藍染はいつも、きちんと顔を雛森に向ける。
「それだけだなんて言ってはいけないよ。雛森君。君はいつも本当に良くやってくれている」
低い、けれどはっきりとした声でたしなめられ、雛森は少し俯いた。その頭に暖かい手のひらが乗せられる。
「過大評価をしてはならないが、卑下をしてはいけない。どちらも自意識過剰で客観的な見方を出来ていない証拠だからね。自分をきちんと評価しなさい。僕は君に助けられているよ。それを信じてくれるかい」
柔らかな重みが心地よい。雛森は藍染を見上げる。眼鏡の奥の深い瞳は優しげで、厚い手のひらは優しく雛森の頭をぽんぽんとたたく。そして、慌てたように手を引っ込める。
「女性に無闇に触れてはいけなかったね」
「いえ、そんな」
「でもそんな不埒なことでもなく本当に、本気で僕は君に感謝している」
僅かに躊躇した手がもう一度伸ばされて、雛森の頭を軽く撫でた。
「僕を信じてくれるかな」
雛森は熱い感情が沸き上がるのを押さえて、頷く。
「はい。……ありがとうございます」
こういうとき、藍染の微笑みに雛森はいつも誓う。何があっても、藍染隊長についていこうと。この人の為に自分は動こうと。
それが副隊長としての思いなのか、個人としての想いなのか、それは雛森にも分からなかった。それらは混然として複雑な模様を描き、ただ雛森の中にあった。
「雛森さんは本当に藍染隊長を尊敬しているんだね」
吉良はそう言って、少し哀しげに眉を寄せて笑った。
「うん。吉良君も、市丸隊長を尊敬してるんでしょう?」
屈託無く笑い、雛森は吉良を見上げた。吉良は困ったように笑みを浮かべて頷く。
「うん。そうだね」
雛森は嬉しげに微笑んだ。
「市丸隊長は普段は大変だけど、でもいざっていうときにはとても頼りになる方で、そういうときには本当に尊敬してる自分に気づくよ。普段は難しいけど」
「ふふ。市丸隊長って、藍染隊長の下にいらしたときも細かい雑用は藍染隊長がなさっていたらしいものね」
雛森は思いだし笑いをする。吉良は首を傾げた。
「藍染隊長がお話して下さったの。そして、次に来た私はよく働くから、副隊長ってこういうものだったんだと思い出したよって、笑っていらした」
どことなくふと砂糖菓子の匂いがしたように感じて、吉良は、ただ笑みを返した。
「尊敬できる隊長の下で働けて、私達、しあわせだね」
「……うん」
頬を染めて笑う雛森を見て、吉良はもう一度、困ったように笑った。
「雛森君」
藍染は雛森を常に心地よい響きで呼ぶ。雛森はその度に、体の芯に静かで確かなものが波立つのを感じる。
「はい、藍染隊長」
駆け寄ると、藍染は先程提出した提案書を手にしていた。
「ここなんだけどね」
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11月22日(木)
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