ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 9
 スミレがその同級生と付き合っていると聞いたのは四年生になった春のことだった。つきあい始めてすでに半年以上経っていると聞いて、乱菊はスミレに向かってふて腐れた顔をして見せる。
「黙ってたなんて、水くさい」
「内緒にするつもりもなかったのよ。話す機会がなかっただけなの」
 そう言ってスミレは顔の前で両手を合わせて謝る仕草をする。寮の第二談話室には四人以外はいない。夜中の、机の上に置かれた蝋燭の灯りだけで話している四人は自然と顔を寄せて話していた。乱菊と同じく初耳だったツワブキとリンドウは、スミレのその仕草を見て顔を綻ばせた。
「あーあ、じゃあ、すずめ亭のあんみつ二杯で許しちゃおうかな」
 ツワブキが頭の上で手を組んで、上体を反らせる。リンドウも笑って言った。
「なら私はみつまめ三杯かしら」
「そんなに食べるの?」
 スミレが慌ててリンドウに尋ねる。リンドウは楽しそうだ。
「昼ご飯を抜いてでも奢ってもらうわよ」
「それならあたしは、どうしよっかなあ」
 乱菊は腕を組んで考え込む。
「あまり食べなくていいよ、乱菊ちゃん」
「そんなわけにいかないでしょ。そうね、特盛りみたらし団子かなあ」
「何皿?」
 スミレが眉を寄せて笑って尋ねる。乱菊は花のように微笑んだ。
「抹茶付きにしてくれるんなら一皿でいいわよ」
 乱菊の言葉に、スミレは肩を落とした。
「あーあ、お手伝い増やさなきゃ」
「あたしと一緒に皿洗いしようよ」
 乱菊はスミレの肩を叩く。四人はいつも何らかの手伝いをして寮母から小遣いをもらっていた。流魂街出身の乱菊達は送金してくれるような人間がおらず、スミレの場合は家の生活が裕福ではないからだった。
「あたしのやってる、植木の手入れっていう手もあるよ」
 ツワブキが自分を指さして誘う。スミレは顔の前で両手を振った。
「背が届かないと思う。私、この中で一番小さいのよ」
 リンドウと乱菊は二人を見比べて、頷いた。
「この可愛らしさが彼の心を射止めたのかしら」
 リンドウがわざわざ声をひそめて乱菊に囁いた。乱菊が同じように声をひそめる。
「花のような愛らしさが彼を恋の奴隷にしてしまったようね」
「聞こえているわよ」
 笑う三人をスミレが軽く睨んでいる。けれどその頬は、蝋燭の頼りない灯りでもはっきり分かるほどに赤く染まっていた。その表情を見て、乱菊は素直に微笑んだ。ほっとしている部分もあった。
 スミレが一人で病気の母親の看病をしていると知ったのは三年になってからだった。寮にいる現在は親戚の人が母親を面倒を見てくれているらしいが、スミレが卒業したら全てが彼女の細い肩にかかってくる。スミレは自分の持つ力で最大限に稼げる職として死神を選んでここに来ていた。お母様を支えられるのは私だけですもの、とそのときスミレは強い眼をして言った。だから早く死神になりたい、とも言った。一人でその重責に耐えているスミレに、共に歩もうとする男性が現れたことを、乱菊も他の二人もこっそり喜んでいる。そして乱菊はそっと思う。こういう形になるのならば、恋というものもいいものなのかもしれないと。
「あーあ、いいなあ」
 ツワブキが椅子の上で膝を抱えた。体を前後に揺らして、まるで駄々をこねる子供のようだ。
「何言ってるの。男の子からも女の子からももてる人が」
 笑ってリンドウがツワブキの二の腕をつつき、ツワブキはますます体を揺らす。
「女の子からもてても嬉しくないよー。好きで背が高くなったわけじゃないのにさあ。男の子からだって、妙に細くて可愛らしい男とかばっかでさ。あたし、そんな強くないっつの。守ってもらいたいんだっつの、可愛く」
「無理言うなあ」
 乱菊はツワブキのツンツンと立った髪の毛を乱暴に梳いた。
「あたしだって、背が高いからか女の子からも色々贈り物貰ったりするよ。仕方ないって。高くなったもんは」
「でも乱は普通に男の子からもてるじゃない」
「……ありがたくない人が多いけどね」
 思い出して乱菊は眉をひそめた。

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06月12日(月)
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