ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 11
 固く口を閉ざし、沈黙していたギンが自分の方を振り返ったことに乱菊は安堵し、その眼をみて訝しげに首を傾げた。
 普段と、眼が、違う。
 見たこともないその眼に、乱菊は一瞬不安になった。殺意ではない。敵意でもない。流魂街でよく向けられた血走った眼でもない。けれどその眼は熱に潤んでいて、その視線は熱く湿っている。なのに、どこか静かで、奥底には理性があった。
 変だ。乱菊はわずかに後ろに下がる。矛盾したものがギンの紅い眼の中に共存していて、それが乱菊を混乱させる。
「ギン……?」
 ギンの表情は沈みきっていて乱菊には伺えない。先程の薄っぺらい笑みでないことはいいのだが、ギンの引き結ばれた口元が、何か、重いものを予感させて乱菊は困惑を隠せない。
 ゆっくりと、時の流れが遅くなったかのようにギンの手が伸ばされて、それに一瞬見とれていた乱菊は、次の瞬間、反射的に体を離そうとした。その途端、急にギンの手は素早く動いて乱菊の腕を捕らえたかと思うと、自分の方に引き寄せて、腕の中に乱菊を抱きしめる。普段の抱擁とは異なるその腕の力に、耳元にあたる息の熱さに、乱菊は違和感と、かすかな恐怖を覚えた。体が強張り、言葉が出ない。
 ギンは無言のまま、乱菊を抱え上げて寝台の上に放り投げるように横たわらせると、そのまま離れることなく乱菊の上に覆い被さった。
「ギン……! ねえ!」
「大声上げると、人来るで」
 思わず出した声に、ギンが耳元で囁いた。その声の低さに乱菊は総毛立つ。
 これは誰。
 この人は誰。
 強い力で自分を抱き竦めるこの人は誰。熱い声で耳元に囁くこの人は誰。熱を帯びた眼で自分を見つめるこの人は誰。
 乱菊は知らなかった。ギンのこんな熱も重みも力も、知らなかった。

 知らない人が乱菊の上にいた。

「乱菊を邪魔やと思うたことなんかない」
 焚きしめたような良い香りのする髪に顔を埋めて、耳元でギンは囁く。
「乱菊をどうでもええと思うたことなんかない」
 あまりにも唇が近づいて耳朶に触れると、乱菊の体が腕の中で跳ねる。その感触を味わいたくて、ギンは唇を耳に押しつけて囁いた。
「ただ、こんな風に、乱菊を、壊したかっただけや」
 息を飲み込んで殺す、その堪えた声が溜まらなく甘い。腕の中で震えるしなやかな体が狂おしいほど柔らかい。背筋がぞくぞくするのをギンは感じた。頭の芯が熱を帯びて何も考えられなくなる。それでもギンは、奥底の本当のことは隠しながら、そして嘘は言わないまま、乱菊に囁く。
「壊れたら、それで、お人形さんは、終いやろ」
 乱菊には、意味がわからなかった。
 ギンが何を言っているのか分からない。ただギンが力を込めるたび、耳元に唇を押し当てるたび、熱い吐息で首筋をなぞるたび、体中が過敏になって熱くなる。熱が乱菊の頭を鈍くさせ、乱菊の混乱は加速する。
「だから乱菊、これでボクらお終いや。ボクを嫌うなり憎う思うなりなんでもしぃや。ボクはしたいよう、するだけや」
 ギンの言葉を乱菊は聞き咎めた。息が乱れてはいたが、乱菊は自分の首筋に顔を埋めているギンに言う。
「……どうして、あたしが、あんたを、嫌う、の」
 首を軽く噛まれて、思考が全て飛びそうになるのをどうにか捕まえて、乱菊は必死になって言葉を放つ。
「こんなこと、で、どうしてあんたを、憎むの」
「こんなこと、やて」
 ギンが体を少し起こして、乱菊を覗き込んだ。その眼を見て乱菊は眉を顰める。ギンの眼の奥の奥の光は、普段と一緒の柔らかさだ。確かに熱く潤んでいるけれど、静かで柔らかな眼だ。なのにどうして、こんなことになっているのか。乱菊はギンから眼を逸らさないまま、話そうとする。話しておかなければ、伝えておかなければならないことが乱菊にはあった。
「あたし、壊れないわ。こんなことで、壊れない。だって、ねえ、あたしずっと」

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05月02日(火)
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