ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 10
 寮での手伝いを終えて部屋に戻ると、ギンはそっと周囲の気配を探った。そして息を殺して音を立てないように窓を開けると、勢いよく飛び出してすぐ傍の枝に飛び移った。そして葉陰に隠れるようにして数本先の街路樹まで移り、そこから幹をつたって地面に降りた。ここ数日、森にいるわけでもないのにこんなことばかりしているような気がして、ギンは微かに笑みを浮かべる。こんな些細なことも乱菊に報告すると、すばらしく楽しいことのように乱菊はギンに微笑んでくれるだろう。そして言うのだ。あんたはいつ猿になったの、猿も木から落ちるんだから、気を付けなさいよ、と。乱菊の口調を思い浮かべて、ギンは泣き笑いのような表情を浮かべた。そして、先程頭に叩き込んだ瀞霊廷の全体図を思い出し、女子寮の方へと向かう。
 夜の瀞霊廷は人通りが少なかった。ギンは用心して、建物の影の中から出ないように、周囲の気配も霊圧も探りながら歩く。藍染に見つかることを恐れてのことだが、それ以前に女子寮に向かっているというだけで見咎められるだろう。
 瀞霊廷の石畳の道に、蔵のような店の影が落ちている。白壁が続いているせいで、月光を反射してひどく明るい。屋根瓦の彫刻が鈍く輝いている。その中を夜を眠らない人々が時折すれ違う。
 ギンはこれまでの暮らしとの差を思い、口を歪めて笑った。でも、これが世界というものだ。このことは、ギンを悲しませることも憤らせることもしない。ギンはただ、そういうものだと思いながら、急ぎ足で通り抜けるだけだ。
 町中を抜け、林の中に入るとその向こうに女子寮の建物が見えた。白壁に、細長い窓がいくつも、狭い感覚で並んでいる。それらの幾つかは暗いが、多くの……特に下の階ほど灯りがともっている。一階には大部屋があるのか、窓も大きく、少しだけ豪奢に作られている。作りは男子寮と変わらないようだ。ギンは少し手前の木立に隠れ、乱菊の霊圧を探るために耳を澄ませた。
 その途端、四階左端の窓が乱暴に開けられた。
 山吹色の髪の毛が揺れて、乱菊が慌てたように周囲を見回している。拍子抜けて、ギンは声を立てずに笑った。乱菊は、こちらがどんなに霊圧を抑えても気づいてくれる。もともと勘が働くのだろう。乱菊は、気のせいだとも思わないのか、諦める様子もなく周囲を探っている。
 さすがに堂々と出ていくと誰かに見られるかもしれない。乱菊の隣の部屋の窓は暗いままだから、木の枝から姿を現す分には見つからないだろう。そう考えてギンは手近の木に登ると、枝づたいに乱菊の窓辺に近づいた。枝が微かに揺れるが、ギンは葉陰に隠れて静かに窓辺へと向かった。
「……ギン」
 乱菊が、泣きそうな笑い顔で窓辺にいた。
 自分の唇に人差し指を当てて、ギンは窓から部屋の中に滑り込んだ。その体を、乱菊が無言で抱きしめた。
 ギンの匂いにくるまれて、乱菊の両目から涙が零れた。そのことに自分で驚いて、自分がどれだけギンに会いたかったかに気づく。ギンはいつものように、戸惑ったように頭を撫で、その後に腕を背中に回して柔らかく抱きしめてきた。ギンの心臓が早く脈打っているのを押しつけた耳に感じて、乱菊はやっと安心する。
「乱菊」
 耳元でギンが囁く。
「怪我、してへんか」
 乱菊は腕の中で頷いた。
「なんともないんか。大丈夫か」
 再び乱菊が頷くと、ギンは大きく息を付いて乱菊の首筋に顔を埋めた。ギンの吐息を首に受け、乱菊は少し緊張した。ずっと一緒にいたのに、少し離れていたからだろうか。でもその緊張は決して居心地の悪い物ではなかった。乱菊は笑みを口元に浮かべる。
「ギンこそ、なんともないの」
「ボクはなんともあらへん」
「そう、ならいいんだけど」
 ギンが腕を緩めたので、乱菊は離れて、既に布団を敷いてあった寝台に腰をかけた。その横にギンも座る。布団の下で箱の蓋が軋んだ。
「ごめんなさい、ギン。あんたばかりに大変な思いをさせて」
「そんなことあらへんよ」
「ううん……あんたが集めてくれた着物とか、あんたの分はここにあるから」
 寝台の隅に置かれた包みを示し、乱菊はギンの顔を覗き込んだ。
「それでね、ギン……何があったの?」
「何もあらへんよ」
「嘘」

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04月26日(水)
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