ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 3
かなり乱菊はうんざりしていた。
毎日毎日、集落の男二人が入れ替わり立ち替わり乱菊を口説きにやってくる。これまで、つれない乱菊の態度に数人は諦めたが、この二人は、夏に向けて熱くなる太陽に加熱されたのか、毎日毎日やってきた。常時いるわけではないことが幸いだったが、彼らは自分の作業が始まる前の朝のひとときを乱菊と共に過ごそうというらしく、乱菊が起きる前から小屋の周辺を彷徨き廻っている。半年も続くギンの不在に、ギンはもう帰ってこないという自分の諦めに、毎晩疲れて眠る乱菊にとって彼らの気配での目覚めは最悪だった。
「おはよう、乱菊」
「一緒に果物を食べないか」
「泉の辺で涼みながら食べようよ」
戸を開けると二人の男が交代で乱菊に話しかけてくる。相手を出し抜こうと思わないのだろうかと、乱菊はいつも不思議に思う。多分、抜け駆けするほど強気にはなれないのだろう。そう考えて乱菊は更にうんざりする。
「ねえったら、乱菊」
「悪いけど」
溜息をついて、乱菊は二人に向き直った。
「あんた達に乱菊なんて呼び捨てにされる筋合いはないわ。止めて頂戴。それから食べ物は無駄にしたくないからまだいらないの。だいたい、あんた達は食べなくても動けるでしょう? 果物はお祝いのために採ってきたものでしょう? 大事にしないとだめじゃない」
鬱陶しいと思うその感情をわざと隠すことなく、乱菊は力を込めて言った。乱菊と呼んでいいのはギンだけだ。乱菊の口調は自然ときつくなる。男二人は少し戸惑ったような表情をする。
「はい、お二人ともおはようございます。ほら、もう挨拶はすませたわ。あんた達は仕事に行って。あたしもすることがあるの」
乱菊はそう言い放つと、戸の脇に置いてあった籠を抱える。かなり苛立っていることを自覚していた乱菊は、とにかく早くここを立ち去りたかった。しかい男達は乱菊の前から動こうとしない。
「どうしたのよ」
「俺達も一緒に行くよ」
「自分の仕事をして頂戴。あたしは一人でできるのよ」
「一人でできるって、もうそろそろ一緒にしようよ。寂しくないのか。市丸はもう帰ってこないよ」
苛立っていた乱菊の感情がすっと引いた。男達は籠もるような聞き取りづらい声で話している。まだ朝だというのに鋭い夏の陽射しが、じりじりと首筋を焼いている。
「アイツはもう帰ってこない。外れに住んでいないで、俺達の傍に来いよ。あんな奴待っていたって仕方ないじゃないか」
「あんたにそんなことを言われる筋合いはどこにもないわ」
乱菊はわざと微笑んで言った。声は低く冷たく、我ながら怒っていると他人事のように乱菊は感心する。
「あたしに任されている仕事は一人でできることなのよ。それに、あたしは好きでここにいるの。寂しくもなんともないわ。いい加減にして」
「でも」
一人の男が乱菊の肩を掴んだ。そこから悪寒が全身に広がるのを感じて、乱菊はその手を乱暴に振り払う。男は手を放したが、今度は振り払った手首を掴んだ。乱菊は解放しそうになる霊圧を抑え、気持ち悪さを我慢した。霊力を使うことは許されなかった。
「……離して頂戴」
「乱菊が一緒に来てくれたら」
「いい加減にしないと殴るわよ」
「いくら霊力があるといっても、所詮、女じゃないか」
男の言いぐさに嫌悪感が勢いよく沸き上がる。
これも全部ギンが帰ってこないからと思ったときに、乱菊の肌に懐かしい霊圧が微かに触れた。
その出所を探して振り返る。森の方に、そこに人影があるのを、こちらに向かってくる人影を乱菊は見つけた。それはまだ遠くてはっきりと見えないけれど、乱菊が目を向けたとたんに、霊圧が強くなった。
陽射しに輝くあの銀髪。
「ギン!」
乱菊は叫んで、掴まれている手首を力一杯振り解くと、驚いて何も言えない男達を置いて籠を放り出して走り出した。向こうの人影もこちらに向かって駆けだしたのが見える。
距離をもどかしく思いながら乱菊は全力で走った。
最初、乱菊の傍に男が二人いることに愕然とし、次に乱菊が嫌がっている素振りであることにほっとして、ならば大変な事態なのではないかと一瞬霊圧が高まったら、乱菊が自分の方を振り返った。
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03月22日(水)
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