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G*R
by K・カヲル
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■ぼくらはただそうやって世界を手にした 4
 笑うようになった乱菊は、少しずつだが、自分を取り戻していった。笑い、怒り、泣き、そしてまた笑う。ぎこちなかった表情から固さがとれて、言葉が滑らかに出てくるようになり、やがて晴れわたる青い高い空を見て笑うようになり、降りしきる雪の中ではしゃぐようになった。
 そういえば初対面で自分の名を「変な名前」と言い放つような子なのだ、ということをギンがしみじみと思ったように、本来の乱菊は物事をはっきりと口にするような、さっぱりとした少女だった。まっすぐ前を向いて、まっすぐに物事を捉える、気持ちの良い人間だった。それでいて気持ちは優しく、細やかさも兼ね備えていた。そういった面が、長く滞在した冬が去ろうとするころには、だいぶ表にでるようになっていた。
「ギン、ほら、強情してないでこっちを向いて」
 枝に残っていた乾いた果物を採っていて枝から落ちたギンは少し恥ずかしくてそっぽを向いていたけれど、乱菊は気にせずギンの顔を両手で挟んで自分の方に向けた。ギンは乱菊の手の柔らかさにくらくらして、結局逆らえずに乱菊に向き直る。
「ああほら、ここも擦り剥いてる」
「こんなん怪我のうちに入らんて。ええよ」
「だめよ。泥を落とすくらいはしないと」
 それくらいしかできることのない乱菊は、やきもきしながら川の水で濡らした布きれで頬の傷の泥を拭う。その手つきがギンを痛くしないようにそっとそっとされていることに、傷を見つめる乱菊の眼が心配そうに顰められていることに、ギンは思わず嬉しくなって笑ってしまった。
「何がおかしいのよ。痛いのに笑ってるなんて変よ」
「いや別におかしいわけやないん」
「なら、何?」
「なんでもないんよ」
 自分を見てにこにこと笑うギンにつられて乱菊も笑った。
「変な子、ギンったら」
 二人で顔を見合わせて笑う。なんて緩やかな時間なのだろう。こんな時間を過ごせるなんてこれまでの二人には想像もできなかった。川のせせらぎが柔らかく耳に響く。空は青く透き通っていて、土は軟らかく、日光に照らされてほのかに暖かい。これから少しずつ春に近づく、柔らかな陽射し。
 道のない枯れ草の草原が続く。遙か遠くに白壁の家が点々とあるのが見える。少し大きな集落なのだろう。黒い屋根が光っている。傍には常緑樹の森があるのか、濃い緑の塊がある。枯れ草色の中に、生きている緑が輝いている。



 世界は実はこんなにもやさしくてあざやかなのか。



 傷をきれいに洗い終えて、二人は足下に転がしておいた果実を抱えた。それに加えてギンはあばら屋から持ってきたわずかな荷物……干した果物や芋、それらに加えて大きな古布や火打ち石などをまとめて包んである、それを背負う。幼い子供だけで暮らしていると狙われやすい。用心のために二人は定期的に住処をかえている。
「さ、乱菊。行こ」
「うん」
 ギンは乱菊の手を取りたかったが、お互いに両手がふさがっているので諦めた。そのかわり並んで歩く。右手側にきたギンを見て、乱菊は微笑んだ。ギンはいつも自分の右側を歩く。一度、野犬に襲われそうになったことがある。そのときもギンは乱菊の右側にいて、とっさに左手で乱菊を庇い、右手から霊力を放出して犬を追い払った。ギンは右利きなのだろう。ギンの、無意識かもしれないが自分を庇おうとしている行動に、乱菊は嬉しいのか感謝しているのか、胸が痛くなった。けれどそれに甘えてはいけないとも思う。自分だってギンを守れるようにならないといけないのだと思う。
「ギン」
「ん?」
「今度また、霊力の練習しようね。ほら、あたし、加減ができないから」
「んー、なら、けちらんと食べなあかへんよ。乱菊、一気に力ぁ放出しすぎて倒れたりするんやもん」
「あんたほどうまくできないのよ」
「気ぃつけな? なら今夜、しよか」

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01月08日(土)
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