ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雰囲気的な10の御題:哀
 乱菊が小さく身じろぎした。ひょいと顔の傍に置かれた小さな、けれど指の長い白い手が酷く寒そうに見え、ギンは乱菊の顔が半分隠れるくらいまでむしろを引き上げる。そしてしばらくの間、甘く閉じられた長い睫毛を眺めていた。
 乱菊は微かな寝息を規則的にたて、深く眠っている。
 その横でギンは動かずに、両膝と両手をついて乱菊を見下ろしている。体の奥底から沸き上がる何かを感じながら、それを押し殺すように息を詰めている。
 いつか、手折るかもしれないと思う。
 ならばいっそのこと、今、手を伸ばしてしまえばいいと思う。傷ついて、消えない傷を抱えて、忘れることすら出来ないようになってしまえばいいと思う。
 そうすれば。ギンは固められたように微動だにせず乱菊を見つめる。そうすれば、自分は乱菊を手折ることなく、離れられるのではないだろうか。
 ふいに、乱菊が寝返りをうった。
 何か夢でもみているのか、乱菊は口元を緩めて何か呟き、また寝息をたて始める。
「……よう、寝とるなあ」
 呪縛から解かれたように微笑むと、ギンは大きく息をついた。
 そして音もなく立ち上がり、土間で草履を履くとそっと引き戸を開けた。




10.例えばそんな結末
 朝、共に目覚め、昼はそれぞれの役割をこなし、夜、共に眠る。
 春は息吹く生命を喜び、夏は水の冷たさに潤い、秋は実りに感謝し、冬は互いのぬくもりに安らぐ。
 そうして日々は過ぎて年月は流れ、その間を共に過ごしそして共に老いてそして消えていく。共に消えるのもいい。残す方が別れを告げ、残された方は静かに思い出に浸りながら朽ちていくのでもいい。ただ次もまた、できれば巡り会えればと言葉に出さずとも互いに想っていればそれでよかった。現世でもいい。尸魂界でもいい。次もまたひとりとひとりが出会い、ふたりになりたいと。ふたりでいられたらと、ただそれを願う。

 そんな、ぼんやりとした、形にすらならないおぼろげな思いを抱いていたように感じるのも、もうそれが遠いとおいことだからだ。
 あり得ない、それはもう手に入れられないと理解している、ふたりの結末。



 ひび割れていく空間をどこか遠い目で見やり、乱菊は懐かしいことを思い出していた。
 手をかざすそこからひび割れていく空間を眺め、ギンは今も自分の中にあるものに思いを馳せた。
 裂け目から互いの姿が見える。どうしようもなく別の位置に立つ相手を見て、同時に笑みを浮かべた。懐かしく、慕わしく、遠く遠く感じるその人。
 異質な空間を背に立つ男を乱菊は見つめていた。
 青い青い空を背に立つ女をギンは見つめていた。
 そして同時に、刀の柄に手をかけた。


 ひとりと、ひとりが出会ったけれど。
 ふたりにはならないまま。ひとりとひとりのままだったのか。
 互いにずっと、ひとりのままだったのか。
 判らないまま。全く何も判らないまま。






 はい。『哀』なのでどことなく哀しい感じで書きつづりました。10は絶対に最後に書こうと決めていましたが、内容を具体的に考えたのは前日です。書き出しを考えたのは書く直前です。でも、十題の最後としてはまあそれらしくなったと思います。
 十日間(というにはあまりに長い期間)、一日一題を二十分以内で書く、としてきましたが、自分としてはとても良い経験になりました。おつきあい頂き、ありがとうございました。

02月05日(火)
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