ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■『女性死神協会 会議中02番外編(前半)』
 阿近は体を前に乗り出すと、ネムの顔を覗き込んだ。
「なら、まあ、手っ取り早く媚薬……催淫剤でも混ぜてしまいましょう。そちらの材料はまあないこたぁないんで、問題は味でしょうね。まずは試作してみましょうかね」
「ありがとうございます」
 膝の上で両手をあわせて、ネムは深々と頭を下げた。

(そのころの八番隊給湯室)
 七緒はボウルの中を覗きこんで首を傾げる。
「あれ、どうして溶けないのかしら。温度が低いの?」
 火を覗いたりボウルの中を覗いたりして、七緒は考え込む。
「……ちょっとだけ、ちょっとだけ火にかけた方が早いかも」
 なぜか後ろめたさを感じながら、七緒はそうっとボウルを火にかけてみた。そして鍋つかみを左手にはめ、ボウルを振り返る。
 七緒の口から悲鳴が漏れた。


(二番隊・給湯室)
 給湯室への扉を開けると、これまで細く漂っていた異臭と煙が勢いよく流れ出した。
「……なぁに、やってんすか」
 呆れを通り越して嘆きすら感じさせる声で大前田が呟く。煙の向こうから、堂々とした砕蜂の声がした。
「菓子作りだが」
「菓子作りっつうのはもう少し可愛らしいもんすよ、普通」
 戦いを終えたかのような荒れ果てた給湯室を眺めて、冷めた目で大前田は告げる。部屋の壁も床も天井も、砕蜂も何もかもが煤まみれだ。何をどうしたら菓子作りでこのような惨状になるのか、大前田には理解できない。
「終業後っすからね。隊長はご自身の仕事を終えてますからね。まあ別にいいんすけどね。いいんすけど……残業中の隊員と夜勤の隊員が怯えてるんで、ここで悪臭と煙を出すのは止めてくだせえ。いいっすか?」
 自分自身も残業中だ、ということは飲み込んで大前田は言い聞かせるように砕蜂に丁寧に話す。事実、隊員達が異臭と煙に驚いて大前田に訴えてきたのはつい先程のことだ。給湯室でなにやら行っている砕蜂に、不吉な予感がしていた大前田は関わり合いたくはなかったから黙って異臭に耐えていたが、隊員に訴えられては無視も出来ない。
 そして溜息混じりに扉を開けてみればこの有様だ。大前田は幾度目かわからない溜息を盛大につく。
「いいっすね、隊長」
「しかし、菓子作りは続行するぞ。これは任務だからな」
 砕蜂は風格あるよく響く声でそう言い切った。その言葉に大前田は項垂れる。菓子作りが任務だと言ってのける団体は一つしかありえない。
 大前田は頭を振って覚悟を決める。隊員と隊舎を守るのは自分しかいないようだった。
「……何を、作ってるんすか?」
 諦念の入り交じった大前田の問いに、砕蜂は意味もなく胸を張る。
「チョコレートケーキだ。目的を遂行するのに最も適していると判断した」
「目的って何すか」
「それは言えぬ。守秘義務ゆえな」
 守秘義務も何もないだろう。というかその前に、どうやったらケーキを作ってこうなるのか。大前田は胸の中で叫ぶが、ぐっと堪えた。
「じゃあ目的はいいっす。適していると判断した理由は何すか」
「うむ。まあそれは教えてやろう。見目が良いこと。工程が多いため、人はそこに努力と執念を読みとること。以上の二点による。まあそれに、単純に味も良いからな」
「はあ、なるほど」
 頷きながら、大前田は任務の内容をだいたい推測していた。そして給湯室を見回して、砕蜂の腕前の方も推測する。
 大前田は低い声ではっきりと言った。
「隊長。俺に手伝わせてくだせえ」
 隊員と隊舎のために、という言葉は飲み込む。砕蜂は切れ長の目できっと大前田を睨んだ。
「ならぬ。これは私の任務だ」
「俺は実家で料理人の作る様子を眺めて育ってるんすよ。隊長のお役にきっと立てます。ケーキについても、料理人から見目がよく、努力と執念を感じ取れる味の良いものの作り方を訊いてみますから…………是非! 隊長をお手伝いしたいんすよ、俺!」
 隊員と隊舎のために、という言葉を必死に飲み込む。砕蜂はじっと押し黙っていたが、やがて真っ直ぐに大前田を見上げた。
「大前田、すまぬな。私は貴様を誤解していたようだ。貴様がこれほどまでに副官として真摯に仕えようと考えていたとは……是非、手伝ってもらうことにしよう!」

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02月19日(火)
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