ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■神は自粛をするか (6-10)
「憧れていたのに、羨むほどに憧れていたのに、越えたいだなんて思えないほどに強烈で、ただせめて近づくことのできるくらいには強くなりたくて。あんなに色んな思いを、良い物も悪い物も全てぐしゃぐしゃになってあったのに」
 吉良は檜佐木を見て、泣きもせずにもう一度笑う。そして項垂れた。
「隊長が空に消えてから、もう何もなくなったんです。気持ちの良いくらいにすっきりと、さっぱりと。戸惑うくらいに」
 項垂れて揺れる頭に手を伸ばし、檜佐木は今度は優しい手つきで軽く叩いた。
「お前も……ただ尊敬してるのかと思ってたけど、色々複雑だったんだなあ」
「すみません……僕なんかより、先輩の方が大変なのに」
「誰もがみんな大変なんだよ。比べるなんてくだらねえぞ」
 顔を上げた吉良に、檜佐木は明瞭な響きで言う。
「阿散井や乱菊さん達が現世で何か掴んでくるだろう。そして奴らだって何もせずにいるはずはねえ。いいか、俺達は隊長達にまた必ず会うんだ。お前は市丸に必ず会う……そのときに、自分の中に何が残ってるのかはっきりするさ」
「先輩……」
 檜佐木は立ち上がると、吉良に手を伸ばす。
「ほれ、行くぞ。もう腹減った。大前田さんの気が変わらねぇうちにさっさと行くぞ」
「……はい」
 吉良は微かではあるが歪みのない笑みを口の端に浮かべた。そして檜佐木の手を取ると、ゆっくりと立ち上がる。




神は自粛をするか

 それは凄惨な光景だった。
 冷たくなった屍に朝露が降りる。それは既に乾いていた血を再び潤し、赤黒いそれは遠い地平線から射した一筋の朝の光に鈍く光った。朝焼けの東の空は酷く赤く、地上の光景をそのまま映したかのようだと空を見上げてギンは思う。
 普段なら冷たい風が吹き抜ける草原は、見渡す限り滅却師の死体で埋め尽くされていた。

 世界の崩壊の危機というものは意外に簡単に訪れるものだとギンは淡々と思った。滅却師殲滅の命令が下されたときに、多くの死神が悲痛な表情を浮かべる中、ギンは一人、しばらく同じ姿勢のまま命令を聞いていたために凝った首をくるりと回していた。首は乾いた音をたてた。
 簡単に訪れた崩壊の危機の回避もまた、簡単に行われた。
 それなりの犠牲を出しつつも、数でも武力でも圧倒的に死神は滅却師を滅ぼした。もう、再興は難しいだろうというところまで。
 ただ地を空を血で染め上げるだけのことだった。後処理という名目で現世に残っていたギンは、赤く染まった中でただぼんやりと立っている。鼻孔に届くかすかな臓物と血の臭いも気にならない程度で、吹き渡る風が残酷なほど徹底的にそれを吹き飛ばしていく。そこには何の感情も入り込む余地はない。ただ太陽は昨日と同じ光で照らし、風は昨日と同じように吹いている。世界の存在が危うくなっていたなどと、どうでもよいことだと言うように。
「……あっけないわあ」
 だいぶ高く昇った太陽を細めた目で眺め、ギンは呟く。先に帰った藍染は、門をくぐる直前にギンにだけ見える角度で薄く笑って言った。
 ここまで僕達にさせておいて、怠惰な神は何をしているんだろうね。
 余程この世界がどうでもいいらしい。
 その言葉に、そのときギンは笑みだけで答えた。
 ギンは周囲を見渡し、足下の血塗れの屍を見下ろした。
「神さんは、もう手出しはしぃひんて決めてはるんやろうねえ」
 いてはるのなら、とギンは呟く。ギンは神の存在を信じてはいない。いるとしても、この世界を縛る絶対の二つの法則を作っただけで充分だろうと思う。時間が流れゆくことと、物事に終わりがあること。これ以上、何を望むというのだろう。血が流れようと死体が転がろうと、それを悪だとするのはただ人々の決めたことだというのに。ただ凄惨だと、感じるだけだというのに。
 空を見上げると、悠々と飛んでいた鴉がしゃがれた声で鳴いた。







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02月11日(月)
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