ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雰囲気的な10の御題:哀
 その言葉にやちるが卯ノ花を振り仰いだ。向けられた眼を見て、卯ノ花はまなじりを上げた。
 その眼は静かに乾き、普段は豊かにあふれる表情はどこにも見られなかった。
「……じゃあ、剣ちゃんは助かるの?」
 いたいけな姿とはうらはらの静かな問いかけ。卯ノ花は頷くと、柔らかな桃色の髪を優しく梳いた。
「大丈夫です。これより治療を開始します」
 卯ノ花は己の斬魄刀を鞘から引き抜くと、小さくその名を呼んだ。




07.その一瞬に
 卯ノ花が出ていき、部屋の中には勇音の治療するかすかな音だけが響いていた。死と血の支配するここで、勇音は必死に生を手繰り寄せる。卯ノ花の術式によるとはいえ二人同時の蘇生は難しく、息を吹き返しても現状は厳しいままだ。雛森と日番谷の顔色は白を通り越して土色で、勇音は睨むような眼差しで二人に治療を続けていた。
 首筋を汗が流れ落ちる。
 気を抜くと頭の中でこれまでの出来事が濁流のように押し寄せ、勇音は歯を食いしばりそれを追いやる。今、必要なことは命を留めることだということを勇音はよく分かっている。
 ふと、日番谷の眼が開かれた。
「……日番谷隊長」
 こちらに向けられるその碧の眼に力を感じ、勇音はつい力が抜けた。
「まだ動かないで下さい。本当にお怪我が」
「雛森は」
 周囲を見るように瞳を動かし、日番谷が硬い声で訊いた。その問いに勇音は口ごもり、無理に微笑みを浮かべる。
「まだ意識は戻りませんが息を吹き返しています。ご安心下さい」
「……俺はいいから、雛森を頼む。俺は、いいから」
 勇音の答えに、日番谷は眉間のしわを緩ませてまた眼を閉じた。その顔はただ本当に安堵したというもので、勇音は無理に浮かべた笑みを歪ませる。
 自分の答えに日番谷はほんの一瞬、笑みのようなものを僅かに口元に浮かべた。その心情を思い、勇音は暗い眼で雛森を見る。もう意識を取り戻してもいいはずの雛森は、まだ眼を固く閉じていた。




08.一筋の紅
 執務室に入ってきた砕蜂を迎え、大前田は気づかれないように息を吐いた。砕蜂の髪も服もずぶ濡れで、雫が滴り落ちている。外は霧雨が音もなく降っている。傘もささずに来たのだろう。それを気にすることなく、砕蜂は感情の無い眼で大前田を見上げていた。
「……風邪ひくっすよ」
 大前田は引き出しからよく乾いた大型の手拭いを取り出すと、それを砕蜂の頭に被せる。軽く押さえて水気を拭うと、砕蜂は抗うことなく大前田に身を任せている。大前田は音のでないように舌打ちをした。こういうときの砕蜂を大前田はよく知っている。
「風呂の準備をしてきますから、ちゃんと拭いてるんすよ。いいっすね」
 そう言って大前田が部屋を出ていこうとすると、はじめて砕蜂が彼を呼んだ。
 振り返ると、砕蜂が顔を上げていた。その唇から一筋、赤いものが滴っていることに気づいて、大前田は今度は隠すことなく溜息をつく。面倒くせえと呟いて近づくと、拭った雨に濡れた手拭いの隅を手にとってその紅い血を拭った。白い手拭いが朱に染まる。
 噛み切ったのだろう、その唇の傷を大前田に押さえられ、話しにくそうに砕蜂が呟く。
「大前田」
「へえ」
「裏切ったら、私は貴様を殺すぞ」
「了解してるっすよ。それに」
 唇の傷とそれを押さえる自分の太い指だけを見ながら大前田は、常に繰り返される言葉に答える。
「俺も、他の隊員も、決して隊長を裏切りませんよ」
「……そうか」
 あちらの職務で何があったのかを問いはしない。何を感じたのかを訊いたりはしない。毎回繰り返されるその言葉に、ただ大前田は同じ事を答え続ける。




09.傷つけばいい
 薄闇の中、ギンは音を立てないようにそっと床から這い出た。むしろを重ねただけの、寝床とは呼べないような粗末なものだがそれでも何もないよりずっと暖かい。隣で寝息をたてている乱菊の様子を窺い、ギンは自分が使っていたそれらをそっと乱菊の上に被せる。

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02月05日(火)
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