ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■その先の5題02
そうは思うけれど、こうなったのは自分の放った言葉のせいで、それがただ跳ね返ってきただけで。
隊舎に戻ってから、日番谷は執務室をぐるぐると回り続けている。そして今、二十三回目の溜息をついた。
『君の本当』
「眠れないんですか」
勇音が振り向くと、そこには夜勤帰りらしい荻堂の姿があった。持ち帰りの仕事なのか、手には書類の束を持っている。月明かりに照らされて、白い石畳の道に落ちた闇の塊のように荻堂がいた。
「副隊長は、今夜は当直ではありませんよね」
「はい、ただちょっと」
寝間着から着替えていたとはいえ気恥ずかしく、勇音は言葉を誤魔化すように口の中で呟く。ただでさえ、怖い夢を見たから妹のところへ避難しようとしていた途中だった。そんなこと、部下に言えたモノじゃない。
高い背を縮こまらせて俯く勇音を観察するように荻堂は眺め、つぅと目を細めた。そして、近づくと勇音の肩と腰にそれぞれ手を当てる。
「まずは姿勢を正しましょうね、副隊長」
「ひ」
意外と大きな手でぐいと押され、勇音は飛び跳ねるように背筋を伸ばした。それを無表情で眺め、荻堂は頷く。
「さて、どこかへ行かれるのでしたらお送りしますし、ただの散歩をなさっているのでしたら、お付き合い致しましょう」
荻堂の申し出に勇音は目を丸くした。
「え、でもだって、荻堂八席は交代して帰る途中なのではないですか」
「そうですが。女性が夜道を一人で歩くものでもないですし。何よりお一人で眉を八の字にして歩いておられるのを見て、放っておくのは人としてどうかという自問自答の結果ですのでお気づかいなく」
勇音は肩を落とした。先程の夢があまりにも酷く怖ろしく、確かに勇音は物陰やら物音にびくびくして歩いていた。副隊長ともあろうものがと、自分でも思うのだが、それとこれとは全く別のことだった。
「申し訳ありません。副隊長がこんなのでは」
「謝る必要がどこにありますか。昼間の頼もしい副隊長も、夜の……夢遊病かと言わんばかりにふらふら出歩く副隊長も、引っくるめて副隊長ですよ」
勇音の言葉をうち切って、荻堂ははっきりと、けれど淡々とした口調で言った。そして普段通りの飄々とした眼を勇音に向ける。ふざけているのか真面目なのか掴みにくい言動と、感情を読みとりにくい飄々とした眼。
「……荻堂八席って、不思議ですね。どの姿が本当の姿なのか、分からなくなります」
「全部ひっくるめてどれも本当ですよ。全て同一人物から映しだされている姿なんですから。副隊長も、そうでしょう?」
可愛らしく小首を傾げてもその表情の浮かばない綺麗な顔では不気味なだけで、勇音は思わず笑ってしまった。そして笑って細くなった視界にどことなく柔らかい顔をした荻堂が映り、勇音は悪夢の気配が薄らいだのを感じた。
「……すいませんが、それでは隊舎の控え室でお茶を一緒にして下さい」
「了解しました。それでは熱い焙じ茶でも」
隊舎に足を向けて歩き出すと普段は一歩後ろを歩く荻堂が横に並び、石畳に長い影が並んだ。その気遣いに、勇音は背筋を伸ばして微笑む。
『ちいさな穴』
穿たれたのは、気づかないくらいの小さな穴。
最初は本当に気づかなかった。その穴のことも、その穴から射し込む光にも、気づきもしなかったし、そもそも光がなかったから真っ暗だったことにも気づかなかった。
けれどふと見渡すと真っ暗な中に一筋の細い細い光が射し込んでいて、それは小さな小さな、君が穿った穴からぴんと張られた糸のような細さで射し込んでいた。
それはとても細く頼りなかったのだけれど、その光が真っ暗な中を照らして、そしてそこはぼんやりと、仄暗い透明な場所になった。光から離れれば離れるほど闇は濃く深くなったけれど、光の周囲は微かに明るく、光の糸を眺めようとするくらいに離れると仄暗い。そのあたりが心地よくて、それ以上闇の中へは沈まなくなった。
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02月03日(日)
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