ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■25 亀裂
浦原は、あの日、一瞬だけ見えた藍染の目の奥にある仄暗い色をなかったことにはできなかった。
「すいませんね、お呼びだてしてしまって」
そう言ってかろうじて空いている椅子を勧めると、藍染は微笑んで首を横に振った。
「構わないよ。この椅子に座ってしまったら、君の座る場所がどこにもない」
「どこかにもう一つ、埋もれているんスけどね」
「相変わらずだな。この部屋で物をなくすと捜索隊が必要だよ」
扉を閉めて、藍染はそれに寄りかかって腕を組んだ。穏やかに自分を見つめている藍染は、信頼のおける人の良い隊長にしか見えない。浦原は注意深く笑みを作る。狸と狐の化かし合いよりもたちが悪い、互いが互いの嘘を知っている騙し合いを、これから始めなければならなかった。
浦原は笑みを崩さないように口を開いた。
「……崩玉、ようやく壊せましたよ」
笑いながら浦原は言った。藍染はゆっくりと眼を瞑り、そしてゆっくりと開けた。目の前の浦原はいつも通りの、何も読ませない飄々とした顔でこちらを見ている。藍染は口元を緩めた。
「そうか。……良かった。苦労したね」
「そうっスね。ちょっと時間がかかりましたよ。藍染サンもご協力、本当にありがとうございました」
「僕は何もしていないよ。環境を整えるとか、技術局の発展に手を貸すとか、それくらいしかできていない」
浦原に頭を下げられ、藍染は苦笑いをしてみせた。実際、藍染は研究そのものには全く関われていなかった。浦原は全てを一人で行ったのだ。浦原から信用を得られなかったというより、浦原の技術についていける者が自分も含めて誰一人いなかったということだった。藍染もそれを自覚していたから無理に研究に関わろうとしなかったが、それを今は悔やんでいる。藍染は、崩玉がどのような物質であるのかも、それを造り出す具体的な方法も知らないままだった。
藍染は心の底から苦く笑う。
「……しかし、これから先も尸魂界最高峰に位置する研究だったろうね。せめて研究結果は公表しないのかい?」
ほんの僅か、唇を歪ませた藍染の笑みを眺めて、浦原は薄く笑う。
「いえ、あれも闇に葬るだけっスよ。研究内容はおろか、あの存在だって知られない方がいいっス。……まあ、どう隠しても大霊書回廊には強制的に残されてしまうんスけどね。でも、普通ならアソコには誰も入れませんから……まだ安心でしょう」
「そうか。惜しいね。僕のような凡人には、到底、到達し得ない境地だろうから、せめてその姿くらいは垣間見たかったよ」
藍染は残念そうに、微かに眼を伏せた。その仕草は洗練された上品さで、穏やかさで、浦原は眼を細めてそれを眺める。己の九割九分九厘の部分が、これまで通りの藍染を疑うことに違和感をおぼえている。しかし最後のところで、何かが叫ぶ。瞬間的に感じた氷よりも冷ややかな感覚を、己の感じたことを、浦原はぎりぎりのところで信じていた。
「すいません。やはりあれは……人が手にしてはいけないものだったんスよ」
申し訳ないと、片手を頭にあてて軽く頭を下げる浦原を、藍染はにこやかに眺めていた。こうでもしていないと、歯噛みしてしまいそうだった。男にしては細く、しかし筋肉で締まった浦原の腕が袖から覗いていた。それを凝視している自分に気づき、視線が鋭くなるのを押さえようと藍染は顔を崩して笑った。
「人が造り出したものなのに?」
その言葉に浦原もまた、大きな笑みを口に形作る。
「手元が間違えて、それで出来てしまっただけっスよ」
「偶然だというのかな。ならば」
藍染は腹の底から込み上げてくる暗い笑いを自覚した。
「君は神の領域に入り込んだということだね」
藍染の声が低く虚ろに響いた。浦原は目の前の藍染を見て、そしてへらりと笑う。藍染はいつも通りに柔らかな笑みを浮かべているが、眼は全く笑っていなかった。眼だけは、暗く冷ややかに細められて浦原を捉えていた。
「いやだなあ、藍染サン。アタシらも神と呼ばれる者じゃないですか」
軽く薄く笑ってみせると、藍染のそれもまた、軽いものになった。
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11月25日(日)
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