ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■24 断頭台
砕蜂はまじまじと大前田の顔を見た。だらしがないと思っていたその顔には疲れも不満も見受けられなかった。よくよく考えてみれば、砕蜂は三つの役職を掛け持ちしており、それぞれの仕事量もかなり多い。あちらの仕事は秘密厳守であり人数が裂けないものが多く、砕蜂は必ず必要とされた。結果的にしわ寄せは二番隊に、つまりは大前田に来るのだった。
「……大前田」
「へえ」
「これからも、このように私が刑軍の職務に就いていると、貴様は相当忙しくなるが」
「そうっスね」
「構わんのか」
「別に」
大前田はつまらなそうに言った。
「仕事っスからね。俺も、隊長も。当たり前っスよ」
「……そうか」
砕蜂が黙り込むと、大前田は自分の机に戻りなにやら引き出しを開けてごそごそと捜し物をしていたようだった。砕蜂は茶碗を手にとって、まだ熱い茶を飲んだ。香りが喉から鼻に抜け、砕蜂は先程まで気になっていた血の臭いが薄らいだのを感じた。そういえば、部屋に入ってからずっと臭いが気にならなかったことを思い出し、砕蜂は周囲を見渡して、その理由を知った。
一輪挿しに名も知らない花が飾られていた。
普段、そこには竹籤の先に千代紙で作られた鶴やら毬やらがぶらさがった、玩具のような飾りがあった。小さな鈴がぶら下がっていることもあった。ほぼ毎日、大前田がどこからか持ってきていて、それは愛らしく、誰もいない部屋でこっそりと、砕蜂はよく指で突いては揺れるそれを眺めていた。
花が飾られたのは初めてのことだった。
「大前田」
「へえ」
「この花はどうした」
大前田が振り向いて、やはりつまらなさそうな顔をした。
「ああ、まあたまにはいいんじゃないスか」
「普段は持ってこないではないか」
砕蜂が言うと、そこで大前田はわずかに目を細めて笑ったような表情をした。
「隊長に花の香りが移ったらまずいじゃないっスか」
何言っているんだとでもいうような横柄な言い方だったが、砕蜂はただ驚いて目を開いた。確かに、隠密行動の多い自分が何かの香りを纏うことは許されなかったが、それを刑軍出身でもない大前田が配慮しているとは考えてもいなかった。
砕蜂は花に目をやった。
「だから普段は玩具なのか」
「まあ、そうっス」
「でも何故、毎日飾る?」
「隊長、お好きっスよね。こういうの」
「……」
「就任時に、席官の机に飾られていた折り紙の毬をご覧になった様子で、まあ、好きなんかなと。それくらいは面倒じゃないスから」
「……何故」
窓から風が吹き込み、花が揺れた。それを砕蜂はじっと眺めた。
「何故、今日は花なんだ。私が職務に出るまではなかったろう」
「まあ今日くらいはこれでいいかと」
「言え」
大前田が息を付き、面倒くせなあ、と小さく呟いて右手で頭をがりがり掻いた。
「……今夜はもう刑軍の仕事はさすがにないでしょうし、俺はそれらの仕事を詳しくは知らねえっスけど、まあ、多分、気分的に、花の香りがあった方がいいんじゃねえかなと考えただけっスよ。朝にはもう替えます」
砕蜂は眼を閉じた。そして一言、
「そうか」
と言った。大前田は興味なさそうに頷き、再び引き出しに顔を向けた。しばらく無言が続き、やがて大前田が体を起こした。
「あったあったありました。隊長、これ使って湯船に入ったらどうっスか」
「……何だ、それは」
「菖蒲湯とか柚湯みたいなもんスね。気分良く眠れますよ」
大前田の手にあったのは、乾いた花びらや果物の皮を入れた薄布の袋だった。砕蜂はそれを眺め、大前田の顔を見上げた。
「貴様、意外に典雅な奴だな」
「貴族の嗜みってやつっスね」
さらりと嫌みなことを嫌味なく言い、大前田は肩を竦めた。不思議と憎めないその部下に、砕蜂は初めて笑った。
「使おう。貴様が準備してこい」
隊長は隊舎に広い別棟の自室を与えられており、そこには風呂などもあった。
「……女性の部屋に俺が入るのは問題あるんじゃないっスか」
「貴様は副隊長だろう。同じ棟にも住居があろうが」
「隊長と副隊長では風呂は別じゃないスか」
「気にするな。私は何も気にしていない」
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11月24日(土)
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