ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■18 毒娘
「いや、当座をしのぐ良い案だと思うけどよ、ちょっと……面やら人形やらだろう? 普通の感情表現とは違いすぎねえか?」
「でも、コミュニケーションのためには状態の表現手段は必要不可欠ですし、毎回毎回、顔の筋肉を攣らせるわけにいかないじゃないですか」
「お前、たまにマトモなこと言うな」
ふて腐れて唇を尖らせた少女を無視して、阿近は立ち上がった。二人が阿近を見上げる。
「資料室から伝統芸能の映像を借りてこい……て、いい、俺が行ってくる。お前はネムさんの顔の筋肉を柔らかくして、あーとかいーとか準備運動をしていろ。少しでも表情をつけられるようにした方がいいからな」
「はあい」
少女局員の間の抜けた返事を背に、阿近は部屋の扉を開け、後ろ手で閉めた。そして人気のない廊下を歩き出す。硬い足音が予想以上に響き、阿近は顔をしかめた。
「どうしてこんな、熱心なんだかな、俺」
独り言ちて、阿近は自嘲の笑みを浮かべた。これまで自分がしてきたことを思い出し、ネムにしていることを比べる。そして首を振った。
「やっぱり、育てていると情が移るのかねえ…………くだらねえな」
呟きは小さく廊下に反響した。それを打ち消すように、阿近は乱暴な足音で階段へと向かった。
ネムを連れて執務室に入ると、マユリがこちらを振り向いた。阿近は一礼して、体を脇へ避ける。そして手で促すと、ネムは顔を真っ直ぐに向けたまま前に進み、そして立ち止まって礼をした。
「一通り、生活や業務に差し障りのない程度には教えました。問題はないと思います」
「ご苦労だったネ。ふむ、ネム、こっちへ来い」
マユリはネムを呼び寄せ、その顎を乱暴に持ち上げた。隅々まで確認するように覗き込み、そして次に体を回転させる。ネムは無表情のまま、言われるがままに動いている。
それを眺めながら、阿近は複雑な思いを自覚していた。
映像を参考にして感情表現の方法を詰め込むように教えた。仕草や顔の角度、そしてどうにか眉や眼、唇の動きもできるようにしたが、はたしてネムはどれくらい、とっさの判断で出来るようになったのだろうか。どれくらい、人間として動けるようになったのだろうか。
「阿近」
「あ、はい」
急に呼ばれて阿近は顔を上げた。マユリは満足げに頷いている。
「よく出来ているヨ。動きも滑らかだし、命令に対しても躊躇なく動けている。よくやった」
「はい」
「ネムはこれから訓練したあと、副隊長として業務に就かせるヨ。技術局でもそのように認識しておくように」
「分かりました」
軽く頭を下げるだけの礼をして、阿近は下がろうとした。そのとき、ネムがこちらを見て、眼があったと思うと、頭を下げた。
「阿近さん、ありがとうございました」
そう言って、ネムは確かに、阿近が教えたとおりに確かに、口元をわずかに緩ませて、口角を上げた。ほんの少しの動きで表現できるよう、徹夜で教えた表情だった。
無表情からわずかに浮かび上がった、それ。
強烈なその印象に阿近は言葉を失い、ただ頷いた。そしてもう一度礼をして、踵を返す。
扉から滑り出て後ろ手に閉めると、溜息が漏れた。
「……なんつーもん、作ったんですか、局長」
口の中で呟く。何に使うつもりなんですか、アンタは。
あの娘を。あの美しい人形の娘を。
命令を忠実に守り、従うだけならあの美貌はいらないだろう。誰をも溶かす毒のような容姿はいらないだろう。
ネムの美しさは毒だ。誰もが振り返るように、溺れるように、その顔も手足も背中も肌も髪も何もかもが、密やかに香り立ち誘う蠱惑の毒。
かすかなに浮かび上がる表情は、その美しさを更に引き立てるだろう。更に人を溺れさせるだろう。
表現を教えたことを、阿近は後悔した。
阿近さんの喋り方がイマイチ掴めておりません。とりあえず、ネムが作られたときの妄想です。でもまあ、あんな環境で育てられていたら、そりゃあヒワイでグロいものにも慣れますわね。
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11月18日(日)
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