ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 5
「そうね。でもあの子達、あんたとも親しくしてるでしょ。他にあと数人くらいしか友達いないんじゃないの、あんた」
「そうやね。あの子らと、他数人くらいやね、ボクを正面から怖がらんのは。殆ど、ボクを怖がって近寄らんよ。別に何もしとらんのになあ」
 額を離し、目を開けて乱菊はギンの眼を覗き込む。ギンは僅かに目を開けて、微笑んだ。
「ねえ、でも、あたしはあんたとの暮らしを隠して良かったって思ってるわけじゃないのよ。約束したから黙ってるけど」
「うん、でもボクは良かった思うとる。ボクと一緒におったら必ず、誰も近寄りはせんかったやろうから」
「でも、あたしはあんたが敬遠されてるのが悔しい」
「ええんよ。ボク、気にしとらんもん」
 軽いギンの口調に、乱菊は軽く溜息をついた。
「そうね。なら、いいの。とにかく、あたしはあんたのことを怒ってもないし、怖がってもないからね。少しは腹立ててるけど」
「それ、怒っとるて言うんやないの」
「違うの。対象が違うのよ…………あのことは怒ってないけど、いろんなコトを黙ったままでいるあんたには怒ってるの」
「…………嘘ついとらんよ」
「それは知ってる。でも、話さないことだらけでしょ」
「……」
 ギンは笑みを浮かべたまま黙り込む。乱菊は眉を寄せて苦笑した。
「いいわよ。あんたが変なことしなけりゃ、訊かないでおいてあげる」
「変なことしたら、訊くんか」
「殴ってからね」
「……相変わらずやな、乱菊」
 同じように眉を寄せて、ギンは微笑んだ。すると乱菊も微笑んで、お互いにまた引き寄せられるように額を付ける。
 そうしてしばらく黙っていた。
 茜色はゆるゆると濃い藍色に変わり深い群青に変わり、やがて闇色になってゆく。梢の向こうに広がる空は星を瞬かせるようになり、林の中は暗い風がゆるりと通りすぎていった。

「ボク、ようやく乱菊わかったわ」
 ギンがふと呟くように言った。乱菊が目を開けて額を離し、訝しげに首を傾げる。
「あんた、あたしを知らなかったの?」
「全然違うわ。そういうことやない」
 ギンが笑って手を振る。
「乱菊てな、花びらの長さがばらばらに乱れた菊の文様のことなんやて。こないだ、お使いで行った反物屋で見かけてん。ずいぶん艶やかな文様でなあ……乱菊は、その名前ほんまによう似合うとる」
「……そうなんだあ」
 乱菊がしみじみと言った。
「あたし、普通に菊の花の一種かと思ってた」
「どちらにしても、ボクら暮らしてたあの地区には見られんもんやな。菊の花は野菊くらいしかあらへんし、文様のある着物なんぞ滅多に見られへんもんなあ」
「そうねえ」
 当時の暮らしを思い出し、乱菊は遠い目をした。どこかからギンが持ってくる着物はどれも無地で、全く色の違うあて布で繕われていたことが多かった。けれど今の乱菊には、それが無性に懐かしいと感じられる。
 ギンは横目で乱菊を見て、何も言わずに頭を撫でた。そして柔らかい口調で、
「ほんま、乱菊はその名の通り、花みたいやなあ」
と呟いた。こそばゆく感じられ、乱菊は小さく笑う。
「この間の特別授業に来ていた隊長さんは、女の子っていうのはみんな花なんだって言っていたじゃないの」
「……まあ野郎を花とは思えへんよ」
 ギンのどうでもよさげな口調に乱菊はくすくすと笑う。ギンは笑って揺れている乱菊の頭を自分に寄せて、山吹色の髪に顔を埋めて眼を閉じた。
「あの子」
 ギンが小さく名前を呟いた。
「竜胆みたいやな。ほら、小さくて綺麗やないの」
「ああ」
 乱菊は、真っ直ぐな黒髪をさらさらと滑らせて小首を傾げる姿を思い出して、頷いた。
「リンドウって、あの花の竜胆ね。そうね、そんな印象。可憐なのに、凛としていて」
 少し考えるように乱菊は口元に指を当てる。
「なら、あとの二人は菫と石蕗ってところかしら」
「菫は分かる。かわいらしゅうて小さくて、地味なんやけどしっかり咲いとる感じやなあ」
 ギンはまず頷き、そして首を傾げた。
「でもあの子は石蕗やのうて、薊やないの。ほら、背ぇ高うて、髪短いところとかなあ」

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06月07日(水)
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