ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]
■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 3
「いや、確かに忘れとったけど、そやけど、今こう話してて、ええ考えやって思うんやけど。うん、そうや。ええ考えや」
話しているうちに、ギンはだんだん昂揚してきた。そうだ、自分の最初の望みは、乱菊と一緒に死神になることだったのではなかったか。ギンはぐるぐると考えを巡らせる。もう乱菊は強くなった。長旅に耐えられるだろうし、死神試験にも受かるだろう。
死神になれば血を浴びることもない。
荒んだ生活を続けることもない。
そうすれば自分は乱菊にこの世界に拒絶されることもなく、拒絶を恐れて自分でそれを壊してしまうこともなく、ずっと一緒にいられるようになるのではないだろうか。
乱菊と。乱菊の世界と。
「……ええ、考えやて思うんや。ボク」
乱菊は目を見開いたままギンを見ている。ギンの言葉を待っている。そうか、とギンは初めて気づく。自分はずっと言えずにいたけれど、乱菊はずっと自分の言葉を待っていたのではないだろうかと、ギンは確信に近く、思う。
ここまでどうにか乱菊から逃げ切らずにいられたのだからこそ、今。
自分が何も恐れずに、この言葉を言えば。
「なあ、どうやろ、乱菊」
ギンは両手で乱菊の肩を掴んだ。
「中央行って、一緒に死神ならへんやろか」
いつになく真剣な表情のギンを、乱菊はぼうっと見つめていた。連続して驚きがやってくるものだから、乱菊の思考が追いつかない。
「……あたしも一緒に行っていいの?」
乱菊が彼女にしては珍しくおずおずとした口調で問うと、ギンは苦笑した。ギンはこれまでの自分の行動をよく自覚していた。常にギンの帰りを待ち続けた乱菊らしい疑問だと思う。乱菊はいつも帰ってきた自分を殴り倒して元気に迎えてくれるけれど、実はこんなにも不安でいたのか、とギンは改めて気づいた。
「あたりまえや。乱菊いなくてどうするん。一緒に死神なろ? ボクも乱菊も、十分にチカラある思うし、受かるんやないやろか」
「一緒になれるのかな」
「なれる。ボクら、この地区で無敵やん。こんな場所で二人生きてきたんやて。大丈夫や。だから、一緒に行こ」
ギンがここまで言って初めて、乱菊が安心したように顔を綻ばせて笑った。花開くような華やかな、嬉しそうな表情にギンの胸の内がぎゅっと掴まれたように痛くなる。何度も乱菊から逃げようとし続けたけれど、結局自分には無理だった。この綺麗な花から離れられない。傍にいないと、自分は何も感じられない。乱菊を拾う前の自分はどうやって息をしていたのだろうとすら、ギンは思う。
「うん、一緒に行こう。ギン」
乱菊がそう言ったとたん、眼じりに溜まっていた涙がこぼれ落ちた。ギンがそれを指でそっと掬い取ると、乾いていた指先が濡れた。ギンが再び乱菊を抱きしめた。乱菊は力を込めて抱き返す。この喜びがどうかギンに伝わりますように。ギンの頬に自分のそれを寄せながら、この温もりと一緒に伝わらないだろうかと乱菊は願う。
小屋に戻ると、すでに集落の男二人はいなくなっていた。乱菊はほっとしたが、ギンは心の中で舌打ちをした。睨むくらいはしておきたかったのだが、それを目敏く感知した乱菊に「物騒なことをしちゃだめよ」と釘を刺された。
「あたしはもう気にしていないんだから」
乱菊にそう言われてはギンは何も出来ない。少し不満げにするギンを無視して、乱菊は少ない荷物をまとめ始めた。出立するなら、できるだけ早い方がいい。
荷物にできない痛みやすい食べ物や、大きな籠などを親切にしてくれた夫婦のもとへ持っていく。奥方は家で裁縫をしていた。
「奥さん、ギンが帰ってきたの」
乱菊がそう言うと、入り口からギンが覗き込んだ。
「あらギンちゃん、お帰りなさい。なんだか大きくなったわね」
奥方が嬉しそうに微笑んで二人を迎え入れてくれる。陽射しが痛い外とは違い、家の中はしっとりと涼しい。たたきに腰掛けて、乱菊はほっと息をついた。
「よかったわね、乱菊ちゃん」
「ええ。ホントに」
「じゃあ、あの男の子達は近寄らなくなったのね」
「ギンの姿を見たらいなくなっちゃったわ。よかったわよ。しつこくて」
「せやからボクなんとかしたろって」
[5]続きを読む
03月22日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る