ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120054hit]
■『女性死神協会 会議中02番外編4』
指先で箱に触れて勇音は言った。荻堂は小さく、こちらこそ、と言い、懐から取り出した、掌に乗るくらいのガラスの箱を勇音の前に置く。勇音はそれを見、顔を上げて荻堂を見た。荻堂は置いたガラスの箱をもう一度手に取ると、勇音の手を取ってその上にのせる。
分厚いガラスの箱の中には薔薇の花の部分だけが一つ、あった。
「金も力もないものですから、これだけですが……特別に」
荻堂はそう言って柔らかく勇音の手を箱ごと握り、眼を覗き込んだ。そしてすぐに手を離し、ぼんやりしている勇音に一礼すると背を向けて執務室を出ていく。
その背を見送って、勇音は掌の透明な箱を見た。
「……御礼、言いそびれた」
勇音は呟いた。
書類に判を押していた七緒の前に、小さなものが置かれた。
兎の形をした、根付けが正方形の箱の上に乗っかっている。縮緬で出来ていて、小さな鈴と一緒に赤い紐で結わえられていた。正方形の方は色鮮やかな和紙で包まれている。
顔を上げると、京楽が微笑んでいる。
「七緒ちゃんに、チョコのお返し」
「……二つあるように見えるのですが」
「そりゃあ、お菓子だけじゃボクの気持ちが表しきれないもの」
京楽はそう言って笑うと、片目を瞑る。七緒は無言で根付けを手に取った。ちりん、と小さく鈴が鳴る。白兎が一緒に揺れる。
七緒は目を伏せた。京楽が背を屈めて顔を覗き込もうとする。
「どうしたの、七緒ちゃん」
「あの、二つもお返しを頂くのは申し訳ないのですが」
京楽から目を逸らして七緒は呟くように言う。先月、京楽に贈ったチョコレートは辛うじて……本当に辛うじて食べ物として成り立っていたものだった。それを自覚しているから、七緒は京楽と目を合わせられない。
そんな七緒の横顔を眺めて、京楽は柔らかく笑う。
「あらら、七緒ちゃん。愛の抱擁の方がいいのかな? どちらにするか迷ったんだよねぇ。ボクとしては勿論、両方差し上げたいところなんだけど?」
「根付けの方だけをありがたく頂戴します!」
七緒が力強くそう言い切って顔を上げた。京楽と目が合う。
「チョコ、本当に美味しかったよ。七緒ちゃん」
京楽はそう言ってくるりと、自分の執務机に向かっていった。
目の前に突き出された紙袋から、突き出している本人である砕蜂に視線を移して大前田は一言、
「何すか、これ」
と呟いた。執務室に入ってくるなり無言でそうされては、察しの良い大前田もさすがに理解できなかった。しかし、大前田の言葉に顔をしかめた砕蜂は更に紙袋を大前田に押し出してくる。大前田は半ば無理矢理それを受け取った。
「今日はホワイトデーだろう」
「そうすね」
「先月、貴様には菓子を作らせたからな。今日、返礼をするのは当然だろう」
砕蜂は腕を組み、胸を反らせて大前田を見上げている。確かに先月、大前田は一生分かと思われるくらいに菓子を作り続けた。バレンタインデー当日も作り、それは砕蜂が食べたことも確かだった。なるほど、と大前田は頷き、紙袋を覗く。
体が傾いだ。
主に焦げ臭いのだが他にも何か混ざった、正体不明の臭気が大前田の鼻を直撃したのである。臭気に遮られて中身を確認することができなかったが、大前田は再度、覗き込むことを躊躇う。鼻の奥が痛い。
「……た、隊長」
「どうした」
「これは……」
痛みによって涙目になった大前田がおそるおそる尋ねると、砕蜂は片方の口の端を上げて笑った。
「うむ。昨夜、刑軍の給湯室で作成した菓子だ。何、遠慮するな。自信作だ」
格好良いとさえ言える笑みで砕蜂は大前田を見上げている。忙しい砕蜂が時間を割いて、しかも隠れて作ったというのだ。何が言えるだろう。これ以上に光栄なことはない。大前田は肺の底から息を吐いて覚悟を決める。今日はもう仕事はできないことだけは確かだった。
乱菊が執務室に戻ると、机の上には綺麗な箱が乗っていた。
「市丸の野郎が置いていったぞ」
自分の机で日番谷が顔も向けずに言う。乱菊は箱を手にとって眺めた。ベージュと焦茶の柔らかい、大人びた色合いだ。
「そうですか。じゃあ、ホワイトデーですね」
[5]続きを読む
02月25日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る