ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■『女性死神協会 会議中02番外編(前半)』
七緒は本に潜り込みそうなほどに顔を近づけて説明を読むと、手にしていたボウルと泡立て器をかちゃかちゃとぶつけ合わせた。
「…………困ったわね。温度計がないとだめなのかしら。お菓子作りって」
目の前には荒々しく刻まれた茶色の物体がそこかしこに散らばっている。七緒は大きく息をついた。戦いは始まったばかりだ。
(十二番隊・技術局の休憩室)
阿近は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになり、それを堪えて酷くむせた。極限まで苦く濃くなっているブラックコーヒーが鼻からも出そうになって酷く痛い。零さないようにマグカップを机に置き、鼻を押さえつつ阿近は顔を上げた。
ネムは真面目な顔をして阿近の前に立っている。手を揃え、背筋を伸ばした立ち方は普段のネムそのものだ。阿近は先程の言葉は空耳だったのだろうかと、自分の耳を疑う。
「……えーと、ネムさん?」
鼻紙で思い切り鼻をかみたい衝動と戦いながら阿近はネムを見上げた。
「男を、口説く、方法、ですか?」
「はい」
ネムは小さく頷く。阿近は鼻の痛みだけでなく頭痛まで感じて片手で頬杖をついた。この痛みは連日の徹夜のせいではなく、確実にこの突拍子のないネムの相談のせいだと阿近は思う。急ぎの仕事の終了を見計らったかのようにネムがやってくるのを見て、嫌な予感はしていたのだ。疲労感が酷くて、椅子から立ち上がるのが億劫だったから逃げずにいたが、これならば立ち上がって逃げればよかったと阿近は数分前の自分を責める。ネムから何か尋ねられれば、答えないわけにいかないのだ。立場的にも、心理的にも、阿近はネムの頼みを断れない。
阿近は大きく溜息をついた。
「……なぜ男を口説く方法を知りたいのか、そこを尋ねていいですかね」
その言葉にネムは少しだけ考え込むように首を傾げた。
「……守秘義務がありますので、お答えできません」
「では、せめてどうやって口説くのだけでも訊かないと話になりませんよ。言葉で口説くのか、態度でなのか、物品を使うって口説くのか」
「品物を。手作りのチョコレートを使用します」
ネムの言葉に、阿近はがっくりと頭を垂れた。この時期でチョコレートで男を口説く方法となると、思い当たるものはただ一つだ。最近、亡くなった者によってこちらに持ち込まれている現世の風習の中に、チョコレートを贈るものがあったと阿近は記憶を巡らせる。妙な風習だとしか阿近は思わなかったのだが、一般の死神には広まっているらしいことも知っていた。
だが、ネムはそういったことに興味を示すことはない。示すことがあるとすれば。そこまで考えて阿近は更に大きく頭を垂れる。垂れすぎて机に額がつきそうなほどだが、阿近は気にせずにそのまま溜息をついた。ネムが興味を示すことがあるとすれば、女性死神協会のなんらかの企画としか阿近には考えられない。
「……あの団体には関わり合いたくはねぇんだけどなあ」
阿近の呟きに、ネムは無言で首を傾げた。その気配を感じて、とりあえず阿近は顔を上げて、安い椅子の背もたれに勢いよく体を預けた。きいきいと嫌な音を椅子が立てる。阿近は胸の内で睡眠時間に別れを告げた。
「了解しました。とにかく、男を口説く作用のあるチョコレートを考えればいいわけですかね」
「そう、なるのでしょうか」
ネムはまた首を傾げるが阿近はそれを見ないことにした。ここで、チョコレートを渡すときの技巧や口説く台詞や仕草などを訊かれても阿近は答えられない。第一、興味がないし面白くない。チョコレートそのものに催淫効果を持たせる方法を考える方がよほど気が楽で、しかも面白いだろうと思う。
とりあえずネムに椅子を勧め、阿近は本格的に考え始めた。腕を組み、空中の一点を睨むようにしながら阿近は思考を巡らせる。ネムはその様子をおとなしく眺めている。
ふと、阿近は顔をネムに向けた。
「そういや、ネムさん。あんた、チョコレートは作れるんですよね」
菓子作りは教えたことがない。しかしネムは首を縦に振った。
「作り方は調べました。すでに出来上がっているチョコレートを使用すれば、そう難しいものではないようです」
「そうですか。まあ作れるんならいいんですけどね」
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02月19日(火)
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