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G*R
by K・カヲル
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■神は自粛をするか (6-10)
狛村の言葉に、東仙はただ、ただひっそりと微笑みを浮かべた。
そして僕らは日常へ帰る
日番谷は筆を置くと、机に頬杖をついて副官の背を眺めた。
乱菊は珍しく真面目に机に向かい、山のように積み上げられた書類を処理している。まるであのような出来事など嘘だというような見慣れた背中だ。
先日、旅禍が現世へと帰った。朽木ルキアの処遇も決定したし、旅禍に関わり協力した人間については不問に付された。吉良についても、厳しく取り調べられたもののある種冷酷な判断がなされ、憐れみの視線を向けられながら彼は三番隊副隊長として働いている。
あれほどのことがありながらも、時間は確実に日々を押し流して自分達を日常へと帰らせている。
そんなこと、理解していただろうにと日番谷は自分に呆れる。理解していたはずなのに、日番谷は驚きを持ってその日常を迎え入れた。けれど、その理由も日番谷には判っていた。これまでの日常にいた人の幾人かは空へ消え、そして一人は深い眠りに沈んだまま。これでどうして日常と思えよう。それでも、この違和感すらも日常へと溶けていくのか。
「松本」
ふいに日番谷が声をかけると、乱菊はびくりと背筋を伸ばし、そしてばつが悪そうな顔をして振り返る。最近ようやく「うおぉう」という雄々しい驚きの声を上げなくなった。それくらいには彼女も、この日常とやらに慣れてきたのだろうか、と日番谷は頭の片隅で思う。少なくとも、物思いに沈んでいても誰かの呼びかけに反応できるくらいには。
「何でしょうか」
乱菊は完璧な笑顔で日番谷に首を傾げる。その完璧さに日番谷は眉を寄せるが、それについては何も言わない。
「休憩にしようぜ。眼が疲れた」
日番谷はただそう言って、頬杖をついたまま片手をひらひらとさせる。乱菊は嬉しげに、そうですね、お茶をいれてきますと言って給湯室へ出ていく。何も語ろうとはしないその背を眺めて、日番谷は溜息をついた。これすらも日常となるのだろうかと思いながら。
欲望羨望誘惑嫉妬
薄暗い三番隊執務室に入ると、吉良が一人で佇んでいた。
手には書類の束があり、それを机の上で揃えようとしたのだろう、両手で端を持ったまま、吉良は気の抜けた表情で机の前に立っている。
「吉良、もう暗いぞ。明かりくらい点けろ」
檜佐木は皺の寄った眉間を急いで緩め、軽い声で吉良を呼ぶ。びくりと体を揺らして吉良は振り返った。
「先輩……」
「大前田さんが飯奢ってくれるってよ。しかもすげえ珍しい酒つきだとさ。もう今日の仕事は終わってるんだろ。行こうぜ」
吉良は眉尻を下げて、歪んだ顔で笑った。薄暗い中でもその歪みは明らかに見えて、檜佐木は内心溜息をつく。
「すみません……でもほら、僕、この間松本さんと先輩に迷惑かけてしまいましたし、遠慮しておきます」
「何言ってんだよ。俺も乱菊さんも気にしてねぇし、大前田さんならお前を軽々運べるから気にすんな。脱ごうが寝ようが問題ねぇよ」
「でも……」
「ああもう、いいんだよ」
檜佐木は乱暴な足取りで室内に入り、吉良の前に立つとその頭を滅茶苦茶になで回す。慌てたように吉良が檜佐木の手を止めようとするが、檜佐木は両手で吉良の頭を掴むと少し背を屈めて視線を合わせた。
「お前は良くやってる。隊長がいなくなった辛さなら俺も良く知ってる。知ってるから言える。いいか、お前は良くやってるんだ。他でもない俺が言うんだぞてめぇ」
檜佐木の手の中の顔が更に歪み、それを誤魔化すように笑みを浮かべた。吉良の体から力が抜ける。床にへたりこんだ吉良にあわせ、檜佐木もその前に屈み込んだ。
「僕……市丸隊長が消えてから、すっきりしたんです」
「うん」
「本当に尊敬していたんです。助けられた時からずっとずっと、本当に。それなのに、どうして僕はこんなに、まるで悪い夢から覚めた時みたいにすっきりしているんでしょうか」
部屋の闇はじわじわと濃く深くなっている。吉良の乾いた笑みが闇に溶けるように消え、檜佐木はそれを静かな目で見ながら黙って頷く。
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02月11日(月)
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