ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■24 断頭台
「不思議な色だな」
 呟くように問うと、盆を手にした大前田が答える。
「紅茶の色だそうスよ」
 脇机に置かれた茶碗には同じ色をした茶が湯気を立てている。砕蜂はソファに体を沈め、茶碗を手にした。清冽な香りが体を包み込む。
「お湯はどうするっスか」
 大前田がいつも通りの問いをした。
「薔薇がいい」
「了解っス」
 大前田が執務室を出ていく。その背中を見送って、扉が閉じられるのを確認すると砕蜂は茶碗を置いて膝を抱えた。顔を埋めて、眼を固く閉じる。
 全ていつもの、刑軍の仕事が終わった時に繰り返されることだった。

 この儀式のようなことが始まったのは、隊長就任してすぐの、刑軍の、処刑の仕事を終えたときではなかったかと砕蜂は思う。


 刑軍の仕事はその前からずっと行っていたし、それはもう慣れていて、どうと思うことはなかった。しかし、死体を片づけて報告を行った後、二番隊隊長としての仕事がまだ残っていたことを思い出し、舌打ちをして砕蜂は執務室に戻った。
 初めての隊長としての仕事はまだ把握できず、頼るべき副隊長である大前田とはまだ慣れず、どちらかというと信用ならないと砕蜂は考えていた。そして己と消えたあの人との関係を思い出し、溜息をついていた。思い出を消すためにあの人を超えた役職を手に入れたのに、思い出はただ美しくそこに残されていた。そして当時は全く感じてはいなかった血と臓物の臭いだけが鮮烈になっていった。あの、血の染みも闇も打ち消す快活な微笑みがなくなってから、砕蜂は常に自分の手を汚す緋色を常に意識するようになった。
 明日の昼までに確認しなければならない書類の束を思い出して砕蜂は溜息をついた。ただでさえその夜の対象は暴れて血を撒き散らした。血の臭いが鼻の奥から取れず体の奥から取れず、砕蜂は憂鬱な思いで扉を開けた。
「あ、隊長、お疲れ様っした」
 気配も霊圧も消していた大前田が立ち上がり礼をしたのを見て、砕蜂は動きを止めた。目を見開いていたかもしれない。大前田が奇妙な顔をして、
「何してんスか」
と言うまで動かなかった。血の臭いを忘れていた。
「き、貴様こそどうした。何故こんな時間にここにいる」
「隊長がまだ業務中なのに俺だけ寝るわけにもいかないっしょ」
「あれは刑軍としての仕事だ。貴様には関係ないだろう」
「刑軍でも何でも、砕蜂隊長が働いていることに変わりはないでしょうが。まあそれに、昼までの書類もありましたんで片づけていただけっス。あとは隊長が印を押して下さればいいんで」
 砕蜂が驚いて自分の机を振り返ると、そこには綺麗に揃えられた書類がそれぞれ種類ごとに並べられていた。更に驚いて大前田を振り返ると、既に茶の準備をしていたのか、盆を持って立っていた。促されるようにしてソファに砕蜂が腰を下ろすと、大前田は傍机に茶托を置き、その上に音もなく茶碗を置いた。その一つ一つの所作に砕蜂は声も出せないでいたが、大前田は気にする風もなく、感情の読めない目をして砕蜂の前に立った。面倒そうに片手で頭を掻いていた。
「ついでなんで今、報告しますけど、隊長が気になさっていたようだった隊員の鍛錬については、基本的にはそれぞれの班長が行い、週一で俺が面倒みることにしました。隊長は無理なさらず月一に全体稽古で。今日っつうか昨日は五、八、十一、十八の鍛錬を確認しましたが、まあ、いいんじゃないスか。それと技術開発局に相談していた件の返答がきています。それについては明日じゃねえ今日っスけど、確認して下さい。まあ一度お休みになられてからでいいっしょう。あと幾つか現世で発生した問題の報告がありましたが、俺が片づけました。詳細はまあ後でってことで。他細かいことが多々あるんスけど、急ぎじゃないんでそれも後でいいんじゃないスか」
 立て板に水といった澱みのない報告に、砕蜂はただ頷いた。そしてふと、彼が一日の仕事としてはかなりの量をこなしていることに気づいた。残っていた書類の量も半端ではなかったし、それを片づけられるのは副隊長か隊長だけで、つまりそれを大前田は、鍛錬や諸々の問題解決の後に一人で片づけていたということだった。

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11月24日(土)
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