ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■20 欲望
 蝋燭の淡い橙色の光に照らされて、白哉のわずかな表情の変化が見えた。普段は揺るがない彫像のような顔をかすかに歪めて、白哉は緋真を見つめている。顔を包んでいた大きな手は所在なさげに、正座をする白哉の膝に戻された。
「……白哉様」
 布団から手を伸ばすと、緋真は白哉の手に触れた。そっと撫でると、白哉が緋真の手を握る。
「緋真、焦るな。今は養生せよ」
 白哉の声は低く、わずかに硬い。
「家の者も調べている。信頼できる、よく働く者達だ」
「はい、白哉様。あの方々には本当に感謝しております。本当に……本当なら、白哉様の、皆様のお手をわずらわせるわけには参りませんのに」
「……気に病むな」
 白哉の眼が細められる。その痛々しい眼差しに、緋真は言い募りそうになる口を閉じた。己への不甲斐なさと、周囲への申し訳なさと、妹への懺悔の思いと、様々な感情が渦となって溢れそうになるのを緋真は飲み込む。
 白哉の手に力が込められた。緋真も弱々しい力で握り返す。
 そしてお互いに見つめ合い、小さくちいさく微笑み合った。
 緋真はひっそりと深いところから息を吐いた。白哉の薄く硬く結ばれた口元が微かにやわらぎ、鋭い目元はわずかに細められる。そうして自分を見つめる白哉に、緋真はいつも泣きそうになる。白哉の、見逃してしまいそうな微笑みが向けられるたびに、緋真は常に張りつめている何かがほどけていくのを感じ、常に渦巻いている様々な感情が静まるのを感じる。やがて、一人で泣くときと違うものが細く痩せた体を満たし、ますます泣きそうになる緋真はそれを堪えようとして、ただそっと深くふかく息を吐くのだ。
「緋真」
 かすかに空気を震わせて、白哉が呼ぶ。その柔らかな眼を見つめて、緋真は涙を堪えた。幸福を求めてはならないのに、許しを求めてはいけないのに。そう思う心を裏切るように暖かなものは緋真を満たし、そして白哉を求めている。
 なんて罪深いのだろう。
 なんて愚かしく、浅ましく、罪深いのだろう。
 それが人なのか。だからこそ人なのか。
 百年前の妹の眼差しを思い出し、緋真はゆっくりと瞬きをした。何の疑いもない、真っ直ぐに向けられた妹の大きな瞳。緋真は、ゆっくりと、妹とよく似ている大きな眼を閉じ、開ける。
「はい、白哉様」
 緋真は精一杯の笑みを浮かべてみせた。
 







 朽木夫婦のお話です。書きたいとずっと思っていたのですが、何となく書き出さずにおりました。途中まで書いて放置してみたり。
 夫婦にしては初々しすぎるような気もしますが(結婚して四年目にもなれば初々しさはかなり薄れているもんだと思うんですよ)、まあ純情夫婦って事にしておいてやってください。あと、部屋は原作にあっただだっ広い部屋を意識しました。あれって、落ち着いて寝られないように思うのですが、気のせいですか。
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11月20日(火)
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