ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 6-2
「開けるよ。これまでの長い間、僕がどうしてあれほどまでに人望の厚い隊長をしてきたと思う。四十六室とも非常に良好にやってきたし、これまで起きた幾つかの事件でも、僕はこうして個人的に意見をするために中に入ったことがある。僕らがここに入った記録は、門番さえ見ていなければ、中の議事堂にしか残らない。そして門番が見るのは幻だ。誰も気づくことはない。問題はないよ」
説明する藍染の声は柔らかで穏やかで、これがこれから人を殺しに行く者の声かとギンは思う。
普段は帯刀を許されていない斬魄刀を腰に差し、堂々と隊長羽織を翻して三人は屋根の上にいた。完全に気配を消し霊圧を押し殺し、白い羽織ですら人に気付かれないほどに存在は闇に溶けている。
ギンは、灯りを持って周囲を警戒する見張り達を眺めている。
「見張りは何人くらいいるんだい? ギン」
藍染に訊かれ、ギンはひいふうみいと数え出す。
「ええと、入り口前に二人、周囲を歩いて見張っとるのが四人ですわ……藍染隊長、幻見せるて言うてはるけど、彼らに鏡花水月の解放いつ見せはったんですか。彼ら、隊にも所属しとらん下っ端やないの」
「いやだな、ギン。今更なにを言っているんだ」
笑う声にギンは振り向いた。
藍染が酷く冷ややかな笑みを浮かべていた。
「尸魂界で何かある度に、僕がわざわざ斬魄刀を使って戦ってきているのはこの日のためじゃないか。まあ、あまりに雑魚のときは面倒だから素手だったけどね」
ゆっくりと藍染は歩みより、ギンの横を通り過ぎて屋根の端に立った。
「副隊長には必ず見せておく為に、彼らを集めてまで披露したしね。ああ、下の彼らにも見せてあるな。おそらく僕は全ての死神に見せてあるはずだよ」
眼下を冷ややかに見下ろして藍染は小さく笑う。その背後でギンと東仙は互いに顔を見合わせた。東仙はまるで眼が見えているかのようにギンの気配を読んで、同じように苦笑する。
「大雑把やねえ、相変わらず」
ギンが小声で東仙に囁く。東仙が困ったように笑った。
「まあ、藍染隊長は何故か運命を手繰り寄せる力がおありだから」
「そうやけどな。それ、要するに行き当たりばったりいうことやないの」
東仙の言葉に、ギンは呆れた顔で呟く。それを否定せずに、東仙はまあまあとギンを宥めた。
「それでも、長い慎重な準備期間を経て、結局ここまでこうして来ている。それはつまり、世界が藍染隊長を選んだということではないだろうか。少なくとも私はそう感じるし、世界はこのまま爛熟して腐るより、自らを斬り付けてでも膿を出して正しい姿になることを選んだのだと思っているよ」
「そうかもしれんけどなあ」
ギンはこっそりと息を吐く。東仙は穏やかな表情でギンに微笑み、そして藍染の方に体を向けた。ギンもまた、つられるように藍染の背中を眺める。藍染は自信に満ちあふれた背をこちらに向けて、眼下を眺めている。ギンは、東仙の言うことを否定しなかった。世界は、少なくとも死神達は確かに爛熟し、その熟れきった様相はこれから腐り始めることを示しているだろうと思えた。そこに発展はなく、ただ倦怠が重苦しく漂っている。それを打破することが藍染の目的ならば、ギンも少しは違ったかもしれない。乱菊を遠ざけるようなことはせず、むしろこちら側に呼び寄せようとしたかもしれない。しかし。ギンは目の前の五の字を無表情に眺める。最初にこの字を眼にしたときの悪寒は、未だにギンの中から消えなかった。違う。何か違う。この恐怖に似た感覚は、ギンに警鐘を今でも鳴らしている。
「全く、何も問題はない」
風が吹いて、藍染の背の五の字が揺れる。それをギンは無表情で眺めていた。そしてギンは暗い空を見上げた。星が瞬く空は暗く、ギンは今夜が新月で良かったと思う。太陽の光を受けて輝く月に、これから起こす血塗れの惨劇を照らされずにすんで良かったと思う。
「……人を殺すのはずいぶんと久しぶりだな」
低い声で藍染は囁き、肩越しに二人を振り向いた。仄暗い眼がギンと東仙を捉える。
「東仙。戦う術を持たない弱い賢者達を手に掛けるのは気が進まないだろうが、これも世界の変革のために必要なことだ。ただの殺戮ではないことを忘れてはいけないよ」
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07月14日(金)
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