ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 1-1
 乱菊は大前田と目を見合わせて苦笑した。そのあたりの事情は知らないかわりに、二人は朽木ルキアの入隊当時に影で囁かれた噂などを知っている。朽木ルキアが兄の手で十三番隊の隊員となるより少し前に入隊した檜佐木は平隊員としてそれを聞いていただろうし、後から入った阿散井達も耳にしたことくらいはあるだろう。しかし、当時すでに高い地位にいた二人は、多種多様の、根も葉もない噂を耳にしていた。その真偽はどうでもいいことだし、上の立場にいた乱菊から見ればありえないと一笑に付すものばかりだったが、ただその品のない噂を阿散井が知ったら酷く憤るだろうなと乱菊は思う。大前田も同じことを思い出していたらしく、普段はこういう話題にツッコミを入れるのに、今はただ笑って阿散井を見ていた。
「だから、俺は別に、ルキアのことなんて気にしてないんだって」
 二人の視線に気付かずに、阿散井は必死に弁明している。
「どうせ現世で道に迷っているとか動物園でウサギに見惚れてるとか雑貨屋で人形に囲まれているとかそんなもんっすよもうぜんっっぜん気にしてないし心配してないし気に病んでもいないんだって。行方不明なんて大袈裟なもんじゃないっすよ」
「ほらあ、吉良君も檜佐木先輩も、もうからかっちゃだめですよ。今夜は阿散井君の昇進のお祝いなんですから」
 雛森が生暖かい笑みを浮かべて阿散井に助け船を出した。檜佐木も吉良も、苦笑して顔を見合わせる。
「さすがにそろそろ気の毒になってきましたね」
 悪びれもせずにさらっと言う吉良に、檜佐木もまた同じ表情で返す。
「いい性格してるよなあ、お前も」
「えっ、なに、俺、からかわれていたのかよ?」
 酔いも手伝って慌ててきょろきょろと二人を見る阿散井の横に、店員がお銚子を二本、とんと置いていった。
「まあ気にするな。いいから呑め。お前のお祝いなんだし、俺様の奢りだからよ」
 大前田が後ろを振り返ると手を挙げて、更にお銚子を追加した。そんなに呑めませんよと吉良が笑い、ごちそうさまっすと檜佐木が焼き鳥を追加する。乱菊は手を伸ばしてお銚子を手に取ると、阿散井に向かってそれを持ち上げてにやりと笑って見せた。
「あ、すみません」
 阿散井が自分のお猪口を手に取る。乱菊はそっと酒をついだ。
「お財布係が気にせず呑めと言ったんだから、呑んでおきなさい。改めて、おめでと」
「ありがとうございます」
 そう言って軽く頭を下げると、阿散井は一気に酒をあおった。そしてぷはあと息を吐く。その顔を見て、乱菊は苦笑して首を傾げてみせた。
「心配?」
「は? ああ、まあ…………そこそこ」
 阿散井もまた苦笑して、そして目を伏せた。
「でも、俺が心配してもしょうがないんで」
「どうして?」
 阿散井は小さく苦笑して、眉を寄せてどこかを見やり、そして眼を伏せる。躊躇うような仕草に、乱菊は柔らかく促すように首を傾げた。それを見て阿散井は再び苦笑する。
「……俺が探しに行けるわけでもないし、もう、ここ最近、ルキアとそんなしょっちゅう話したりもしてないんで……俺、今のアイツの事情も知らないし」
 再び乱菊にお銚子を向けられて、お猪口を差し出して阿散井は俯いたまま呟くように言う。乱菊はわずかに眉を寄せた。乱菊はそのもどかしさを良く知っている。そのもどかしさが呼び起こすのは今はもう遠い銀色の姿だ。かつて近しかった人が遠くなっているそのやり切れなさを、乱菊はもう長いこと味わっている。眉を寄せたまま、乱菊は小さく小さく、そして柔らかく、
「そうね」
と呟くように言う。
 吉良は自分の手の中のお猪口からちびちびと舐めるように酒を呑んでいたが、目の前で俯いた阿散井の頭に手を伸ばすと、えいと軽く叩いた。
「大丈夫だよ、阿散井君。朽木女史は朽木家のご息女なんだから、ちゃんと探し出されるよ。無事だって」
 それは阿散井が目を伏せた理由とはおそらく少しばかりずれていて、しかし確かに阿散井を気遣っていたから、阿散井はくすぐったそうに笑った。そして阿散井は吉良に向かって顔を上げて、
「おう。そうだな」
と快活に言ってみせる。

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07月04日(火)
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