ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 5
それでも乱菊の細い体躯を眺め、リーダー格の男は唾を飲み込むと無理矢理笑った。
「言いたいことはそれだけか。言うだけ無駄だ。お前が俺らを傷つければそれだけでお前はここにいられなくなるんだぞ。寮から離れたのは失敗だったな。こんなトコロ、物好き以外来やしないさ」
そう言って息を吐き、ぎらぎらした眼で男は乱菊に一歩近づいた。乱菊はその眼を見据えたまま、右手に霊力を集め始めようとする。そして、ぴくんとかすかに体を揺らして眼だけを上に向けて、口元に笑みを浮かべた。そして乱菊は右手を降ろした。
頭上から影の塊が降りてきた。
「人がええ気分で寝とるのに、やかましいなあ」
乱菊と上級生達の間に入ってそう楽しげに、全体的に白い少年はそう言った。
ギンだった。
その背が乱菊を隠すようにしていることに乱菊は気づき、ふっと笑う。そして、肩の力を抜いた。
ギンは笑みを浮かべ、男達と乱菊の間で堂々と立っている。夕暮れの赤い光は木々の葉に遮られ、空気は仄暗い茜色に染まり、その中にギンの制服の白が映えていた。
つぅとギンが顔を上げる。口元は確かに笑みを浮かべていたけれど、その眼は全く笑ってなどいなかった。男達はざわついた。あの銀髪野郎じゃねえか、と誰かが呟いた。その声を聞いて、ギンはいっそう笑みを深める。
「このお人、ボクんとこの級長さんやさかい、そないうっとしことせんでもらえんやろか」
「う、うるせえ、一年坊主はすっこんでろよ。関係ないだろ」
一人が声をひっくり返らせてそう言うが、腰が引けていた。ギンの後ろで冷ややかな眼をして眺めていた乱菊は、それを見て眼を細めた。ギンもまた、せせら笑うように顎を上げると、言い聞かせるようにゆっくりと言う。
「ボクんとこの、級長さんや、言うたやろ。関係あるやないの」
一歩、ギンが足を進めると上級生達は二歩下がった。
ふ、とギンが薄く笑う。
それを合図にしたかのように、一斉に上級生達は背を向けると、何やら叫びながら走り去っていった。
その影が林の奥の宵闇に溶けるのを確認し、更にギンは周囲の霊圧を探る。そしてようやく、ギンは乱菊を振り返った。乱菊はじっと動かずに、ギンを見つめていた。
「ありがとう、ギン。……久しぶりね」
ギンは懐かしむように眼を細めた。
「……そうやね、乱菊」
ギンの言葉に、乱菊は一度眼を閉じて、そしてゆっくりと開けた。
「そう呼ばれるの、すごく久しぶりに感じる。まだ半年くらいなのに」
「……いつも級長さん呼んどるさかい」
「うん。まあ、別にいいわ」
乱菊は、真っ正面からギンを見た。
「こうやって二人きりになったときには、乱菊って呼ぶでしょ」
「……うん」
ぎこちなく、ギンは頷き、そのまま顔を伏せる。それを見て乱菊は眉をひそめた。右手をギンの方へ伸ばしかけて少しばかり逡巡すると、その手を伸ばして乱菊はギンの袂を掴んで引き寄せる。
驚いたような顔をしてギンが乱菊に振り返る。
乱菊の眼は静かだった。
「どうして俯くのよ」
「別に、しとらん」
「あたし、何も怒ってないのよ。あんたのことを嫌っても怒ってもいないのよ。あんた、ちゃんと知ってるって思ってたんだけど」
「うん……知っとる」
「なら、あたしをちゃんと見て」
ギンは戸惑ったように眼を彷徨わせ、伏せると、姿勢を正して乱菊に向き直った。そして自分を見上げている乱菊を見つめる。乱菊はここでやっと顔を綻ばせた。
その笑みを見て、ギンはそっと乱菊の頬に両手を伸ばすとそれを包み込み、自分の額を乱菊のそれに触れさせた。乱菊は自分の手をギンの手に沿わせる。
「久しぶりやな、乱菊」
「そうよ。本当にそう」
乱菊は眼を閉じた。眼の奥が染みるように痛くなったが、それは我慢した。
地上から人の身長二人分ほどの高さにある太い枝に腰を落ち着けて、二人は顔を見合わせた。どちらからともなく笑みが零れて、お互いの額を軽くぶつける。
「乱菊」
「何?」
「ボク……乱菊に友達できてほっとしとる」
乱菊は眼を閉じたまま、口元を綻ばせた。
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06月07日(水)
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