ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 1
 ギンの言葉に、教師が頭を抱える。そして一言、
「何にも、聞いてなかっただろう、お前」
と呟いた。そして顔を上げると、真面目な表情をした。
「いいか、市丸。お前の入学は特例だ。あれだけ遅刻したのにもかかわらず試験が受けられたのは、ひとえに護廷十三隊の藍染隊長が取りなして下さったからだということを忘れるな。勿論、お前の非凡な能力もある。お前が真面目に勉学に励めば、おそらく飛び級で卒業できるだろうし、入隊できるだろう。優秀な成績を期待されているからこそ、入学を許されたことを忘れるな」
「はあ、よう肝に銘じておきますわ」
 藍染の名前が出て、ギンは口の中で舌打ちをした。先程から浴びる周囲からの視線もギンを苛立たせた。成績に限らず、それに付随する自分の全ての言動が藍染に伝わるであろうことを、ギンは再認識した。
 ギンは目の前の教師の禿頭を眺める。そしてつぅと細い眼を更に細めて、考え込むような顔をし、頷いた。
 教師が半ば呆れたように言う。
「とにかく、遅刻はするな。窓から出入りはするな。いいな」
「はい」
「なら、提出物を松本に渡して、それで今日はお終いだ。きちんと渡しておけよ。彼女はお前の代わりに級長を引き受けたんだからな。迷惑をかけんようにな」
 教師はそう言うと、脇の机を指さした。ここで提出物に記入を済ませろと言うことらしい。ギンはおとなしくそれに従い、椅子に腰掛けた。


「災難だったね」
 初日が終了し、教師がギンを説教のために連れだした途端に教室はざわめきに埋まる。机で大きく溜息をついた乱菊は、背中から声をかけられた。振り向くと、そこには小柄な長い黒髪の少女が立っていた。
「ううん、別にいい。こういうこともあるだろうから」
「ええ、松本さん、だったよね」
 少女……リンドウは、そこで小首を傾げて微笑んだ。そうすると真っ直ぐの黒髪がさらさらと音を立てて肩から前に流れる。
「乱菊でいいわ」
「なら、乱ちゃんって呼んでいいかな」
「うん」
 乱菊は少しだけ固い表情で微笑み、頷く。乱菊にとって、ギンを介さずに誰かと親しくしようとするのは初めてのことだった。リンドウは名乗ると、再び小首を傾げて笑みを浮かべる。
「先生から集めた書類をまとめて持ってくるように言われていたよね。まとめるの、手伝うよ」
 乱菊は少しだけ柔らかく笑った。
「ありがとう。半分、いい?」
 乱菊の机には、幾種類かの書類がそれぞれ束になっている。式典の後に配られて、各個人が記入したものだ。それを人ごとに紐でまとめて持ってくるようにと教師は言っていた。
「結構あるねえ。乱ちゃん、先生に文句言わないとだめだよ」
 その量を見てリンドウが苦笑いをした。乱菊もつられて苦笑するが、名を呼ばれて少しばかり鼓動が速くなった。
「五十人いるんでしょう、一組」
「これを一人にやらせようって、先生もひどいよね。級長を二人にすればいいのに」
 二人で机に書類を広げ、ばさばさと乾いた音を立てて書類を分けていると、その机に二人の少女が近づいてきた。顔を上げると、髪の短い背の高い少女と、髪を二つに結った上品そうな少女だった。
「私達も手伝うよ。大変でしょう」
 お下げの少女……スミレがそう言って、笑った。短髪の少女も頷いて、笑いかける。
「いいの?」
「もちろんだよ。それに、人数多くした方が虫除けにいいと思うし」
 背の高い短髪の少女……ツワブキは低い掠れた声でそう言うと、少し顔を近づけて声を潜めた。
「教室の後ろの方で、どうも嫌な感じの男子らがちらちら見ているよ。感じの良い男なら構わないと思ったんだけど、なんか嫌なこと話していたから。お節介なんだけどね」
 乱菊とリンドウは顔を見合わせると、ちらりと後ろの方に目をやった。教室の隅に固まってなにやら話していた男の集団が慌ててこちらから目をそらす。乱菊は溜息をついた。
「ありがとう。お節介なんて、そんなことない。嬉しいよ」
 乱菊の心臓はどくどくと鼓動を速くする。けれど、その鼓動は乱菊を圧迫することはなく、乱菊はようやく柔らかい表情で少女達に微笑んだ。



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06月03日(土)
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