ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 11
ギンは急に乱暴な手つきで乱菊の両手を乱菊の頭の上に持っていき、左手で両手首を押さえつける。乱菊が慌てて振り解こうとしてもぴくりとも動かせない。乱菊の額にかかった髪をギンの右手が撫でるように除き、そのまま右手が額を軽く押さえる。そしてギンは視線を合わせたまま、唇と唇が触れそうな距離まで顔を近づけて、小さく、低く言った。
「黙っとき」
そのまま唇を塞がれて、乱菊は黙らざるを得なかった。
言葉を聞いていられなくて、自分を見つめる眼を見ていられなくて、ギンは乱暴に乱菊の両手の動きを封じ込めると、乱菊のふっくらとした唇を食べるかのように口づけた。
その唇は想像通りに柔らかく、ギンはそのまま本当に食べてしまいたかった。食べて、一緒になって、そのまま消えてしまいたかった。
どこで間違えたのだろう。
何を掛け違えたのだろう。
ただ分かることは、もう後戻りはできないというそれだけだ。
唇を離すと、どちらのものともつかない唾液が糸を引く。それが切れる前にギンはもう一度軽く口づけをして、舌で乱菊の唇を舐めた。乱菊の見開かれていた眼が何かに抗うように細くなり、眉がやけに扇情的に顰められる。それでも視線を外そうとしない乱菊の、その眼に、その表情に、ギンはもう耐えきれなかった。
顔を見ることはもうできない。顔を見せることも、もうできない。
ギンは体を起こしてその下で、乱菊の体を乱暴に転がして俯せにした。抗われる前に乱菊の両手を再び頭の上で押さえつける。乱菊の両手首はギンの左手におさまり、その細さにギンは、乱暴に力を入れようとしてもできず、ただ、布団に押しつける。
「ギン」
なんとか横を向いて振り返ろうとする乱菊の頭を右手で押さえ、乱菊の細い腰を自分の体で封じ、乱菊から見えないようになってやっと、ギンは血が滲むほど唇を噛みしめた。そして乱菊の耳に口を寄せると、感情を殺した声で囁く。
「もう、二人きりでいられるわけやない。どんどん他人がボクらの間に入ってくるで。ボクらの暮らしは終わるんや、乱菊」
耳元から首筋へ、そしてはだけて露わになった肩へとギンの唇が押しつけられて、乱菊はくぐもった声で呻いた。ふと頭からギンの手が離れ、息が楽にできるように頭を動かすと、ギンが頬に唇をおとす。その濡れた感触に乱菊は硬直する。
「いつまでもボクと一緒におらんと、仰山友達作り? 乱菊はべっぴんさんやから、男も仰山できるで。ぴかぴかな暮らしが始まるんやで。ボクとのこと、もう、きれいに忘れ。どうせボクは、乱菊をこんなふうに壊したかっただけや。そうしとうて、ずっと一緒にいただけや。そやさかい、もう終いなんや。そやさかい、もう」
何を言ってるの何を言ってるのこの上にいる人は何を言ってるの。
乱菊にはギンが言いたいことが全くわからなかった。ギンの言葉が本心だとは、どうしても思えなかった。何か違う、何か隠している、それは確信として乱菊の中にあった。自分の体が初めて味わう電流のような刺激に意識を奪われそうになりながら、それでも乱菊はギンの本心を探ろうと、耳に囁かれる声の響きに、背中にあるその気配に、全身を研ぎ澄ませようとする。ギンの表情を確かめようと、懸命に体を捻る。けれど、ギンはするすると乱菊の着物をおろすと背中に口づけをするので、顔を見るどころかその舌の感触に余計に背中が反ってしまう。それでも乱菊は諦めるわけにはいかなかった。
「ギン、あたしの、眼を見て、話して」
「それはできへんよ」
「本心で、話している、なら、あたしを仰向けにして」
「あかんよ。乱菊のきれいなきれいな背中見とるんや」
「ギン」
乱菊は肘で突っ張って体を起こそうとした。しかし、手首を上にずらされて、頭を再び押さえられる。ギンがまた耳元で低く囁いた。
「それに、ボク本心話しとる」
低くひくく囁いた。
「ボク、ずっと乱菊から離れたかったんや」
できれば、こんな事態になる前に。
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05月02日(火)
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