ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 8
「これから筆記試験を行います。君は……こちらへ」
 試験官につれられて、ギンは会場の最後列へ移動する。そのときも全く表情を変えず、全く周囲を見渡さないギンから、乱菊は視線を外さなかった。

 ギンは決して、乱菊の方を振り返らなかった。

 筆記試験の、つまりは合否の結果は、次の日に発表されるということだった。試験官の説明が終わると会場に会話が溢れ、受験生達は次々に群れを成し、もしくは一人で出ていった。誰もが囁くように話し、盗み見るように最後列に座るギンの方を見て、逃げるように部屋を後にする。
 乱菊は荷物をまとめてギンの元に向かおうとしたが、振り返った途端にギンは立ち上がり、どう見ても意図的としか思えない動きで顔を逸らした。そして、窓際に行くと、窓を開けて躊躇もなく窓枠を乗り越える。
「おい、ここ三階だぞ」
 誰かがそう叫んだが、銀髪が窓の向こうに消えた。まだ残っていた人間が騒ぎ出す。その騒ぎの中、乱菊は動けなかった。ギンが、あれくらいの行動で怪我をするとは思えなかったが、ギンの行動そのものが乱菊にはわからなかった。乱菊はギンと話をしたかった。話さなくてもいい。ただ触れて、お互いの無事を喜びたかった。そして、謝りたかった。
 自分が逃げた後、ギンに何があったのだろうか。乱菊は心配で仕方ない。しばらく静止したままあの状況を何度も思い返し、試験前に二人が潜り込んでいた空き家にギンが戻ってくるかもしれない、ということにやっと思考が辿り着き、乱菊は会場から出た。
 瀞霊廷内部は、流魂街とかなり異なる様相をしていた。汚れのない白壁の建物。落ち着きのある色で彩られた店。模様が浮かび上がるように敷き詰められた石畳の道。道の脇に植えられた木々が薄い影を道に落とし、その上を、一目で質の良いとわかる服を着た人々が歩いている。乱菊にとっては、この外にある流魂街一地区だってとてもきれいな町だった。しかし、落ち着いて見渡すと、なんと差があることだろうと感じずにはいられない。まして、自分が落とされて暮らしていた八十地区なんて。
 これが世の中だ。乱菊はかすかにしか覚えていない現世を思う。あそこも、死んでから来たここも、かわりはしない。不条理で、不公平で、不平等。それが世の中だ。それが世界だ。神様なんてどこにもいない。いたとしても、多分、もうこの世界に飽きて見放しているだろう。このことを乱菊は不満に感じてはいない。ただ、そういうものだと感じていただけで、それを目の当たりにしただけのことだった。
 それに。乱菊は俯いて、顔を上げる。誰かに操作された平等な世界なんていらなかった。そんなことに喜びは感じない。乱菊は美しい町並みを見渡す。不条理で不公平で不平等だから、命は何度も現世とここを行き来して、何度もその生を生きるのだろうか。汚い場所で死に、きれいな場所で生き、出会い、別れ、産んで、殺して。ただそんなことを繰り返す。
 自分が幾度の生を繰り返したか乱菊は知らない。ただ、今の人生はとても幸せだと思って乱菊は自然に微笑みを浮かべる。現世でどういう死に方をしたのかは覚えていないが、ここではギンに拾われてこうして生きている。辛いこともあったことは確かだが、ギンとの過去はとても安らかで暖かだ。そんな過去を持っていることを乱菊は素直に喜んでいた。
 だからこそ、今、ギンと一緒にいたかった。

 窓から飛び降りて下に植わっていた木に飛び移り、ギンは枝から枝に飛び移るようにして地面に立った。そして騒がれる前に走り出す。人の間をすり抜けるようにして立ち止まらずに、ギンは西門を飛び出した。そしてそのまま、乱菊と潜り込んだ空き家のある森とは反対方向に駆けていく。
 自分と乱菊の関係を誰かに知られるわけにはいかなかった。誰かに知られ、それが藍染の耳まで届くことは避けなければならなかった。ギンは、顔を背ける前に視界に映った乱菊の姿を思い出して、ぎりぎりと歯を食いしばった。じっと自分を見つめている大きな目。見るな、とギンは叫びたかった。ただギンにできたことは、呼びかけられる前に会場を飛び出すことだけだった。

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04月16日(日)
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