ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]

■ぼくらはただそうやって世界を手にした 9-1
 それもいいかもしれないと思い始めたときに、ギンは肌に違和感を感じた。顔を上げると、巨体の男も感じたのか、口を引き結んで遠くを睨んでいる。後ろの方で長身の男が体を起こす気配がした。
「来る………」
「…………二手に分かれとる……全部で十数人やろか……」
「お前ほんっと使える奴だな、坊主。お前は馬車の人間を起こせ。あと、少しの間は目を瞑れ」
 ギンは馬車に駆け寄ると「悪いんが来るで!」とそれぞれを廻る。用心棒達が左右に散り、じっと気配に耳を澄ませている。最後にギンは女達の馬車にいくと、すでに乱菊が全員を起こして入り口にいた。
「乱菊、奥行きや」
「そんなわけにいかないでしょ」
 乱菊は霊力を溜めながら言った。ここで足手まといになるわけにはいかない。今度こそ、ギンを助けるんだと乱菊は決めていた。
「……無理せんといてや、後生やから。あと眼ぇ瞑っとけぇ言われたわ」
 乱菊の眼を見てそれ以上言うのを諦めたギンは、それだけ告げて馬車の前を陣取って、言われたとおりに目を瞑った。離れることだけはできなかった。
 左右から同時に集団の気配が現れた。そのとたん、用心棒の二人から激しい光と音が放たれた。瞼の向こうで光が炸裂し、耳の中で激しい音がこだまする。おそらく威嚇用になにかを爆発させたのだろう。それらに紛れるように用心棒達の霊圧が放出されている。これだから眼を瞑っておけと言ったのだろう。目つぶしだ。
「てめえら! 俺らを襲えると思ってるのか!」
「それ以上近づくならこんなもんじゃすまないぜ。とっとと帰りな!」
 二人の低い脅しがびりびりと響く。しかし、強盗達の動く気配はない。動けないのではなく、退くつもりがないようだ。
「なら仕方ねえ。怪我してもらうぜ」
 巨体の男が言うと同時に光が消えた。ギンと乱菊は目を開ける。辺りは深い闇に沈んでいるが、強盗達の影ははっきりと見えた。急に暗くなって目が眩んでいるのか、動きが鈍い。乱菊は手に霊力を集める。用心棒達とギンは同時にそれぞれの前にある影の塊に飛び込んだ。
 ギンは手に入れたばかりの脇差を抜いた。抜きざまに目の前の男の喉笛を斬ろうとして、ふと横の光景が目に入る。長身の男が刀を抜いていたが、致命傷を避けて脚の筋を斬っている。
 殺さへんのか。
 愕然としたままギンの体は自動的に動いた。瞬時に屈み込むと、払うように脚の筋を切断する。倒れ込む男の体を避けて右にずれると、そこにいた男の両腕を斬り付けた。錆びた刀が落ちる。叫び声が上がる。勢いを殺さぬまま後ろに飛び退き、身を屈めてもう一度前に飛び込むと二三人の脚の筋を切り裂いた。
「殺されたくなかったらもう帰んな」
「弱いんだからとっとと消えろ」
 用心棒の声がする。周囲を探ると、明らかに暴漢達の戦意が失われつつあるのがわかる。戦えない怪我を負わせることで、誇りより命が大事な奴らを追い払おうということらしい。
 殺さへんのか。
 勢いを脚を踏ん張ることで殺して逆に集団から飛び退くと、乱菊のいる馬車を背にして暴漢達にたちはだかる。と、そのとき、背後に乱菊の霊圧がないことに気づいた。ギンが振り返ると、踊り子の女の一人で、乱菊にどことなく似た女が入り口を守るようにして立っている。
「乱菊はどうしたん!」
 ギンは叫ぶように尋ねた。女が苦虫を噛み潰したような顔をした。
「チビが馬車を降りてしまって……それを追っていった」
「なんやて」
 馬車の向こうで乱菊の霊圧が膨れあがり、弾けたのをギンは感じた。土煙が沸き上がり、その中から暴漢の一人が吹っ飛んでくる。「そいつを人質にとれ! 怪我させてもかまわねえ!」という声。土煙から乱菊が少女を抱えて走ってきた。その後ろに伸びてくる男の手がある。その手には刀。
「乱菊」
 ギンが駆け寄るのと乱菊の背に刀が振り下ろされるのとはほぼ同時だった。先に届いた手は利き腕の右手だった。
 ギンの右手が乱菊を乱暴に引き寄せた。乱菊は少女ごとギンに抱きしめられたかと思うとそのまま勢いよくぐるりと回されて地面に放り出された。少女を庇いながら地面を転がり、慌てて起きあがると、目の前でギンが左肩を斬られていた。

[5]続きを読む

01月27日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る