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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「サンセット・サンライズ」

延び延びになっていた映画館での一作目は、大好きな岸善幸監督作です。直前まで脚本がクドカンとは知らず、確か舞台の東北出身だったなと、期待値高めで観ました。コロナ禍、地方の過疎化問題、都会からの移住者問題、そして震災。これだけ詰め込んだのに、繊細に心配りの出来た仕上がりに、とても感服。心に残るシーンが随所にあり、とても感激しました。素敵な作品です。
時は2020年のコロナ禍の始まり。大手企業に勤める西尾晋作(菅田将暉)は、仕事がリモートワーク中心となるのを切欠に、転居を考えます。そこへ宮城県の三陸の宇田濱に4LDKにして、月6万の格安物件を発見。家主の百香(井上真央)は、役場の空家問題担当者で、漁師の父親、章男(中村雅俊)との二人暮らしで、何かと晋作の生活の面を支えます。釣りが大好きな晋作は、神出鬼没にあちこちのスポットに出現。しかし、様々な境遇の土地の人々は、必ずしも晋作を歓迎してくれはしません。
東京から来た晋作に、汚い物に接するかのように、消毒スプレーかけまくる百香に、あー、そんなだったねぇと、何だか感慨深い。ソーシャルディスタンスとか、検温とか、二週間の隔離とか、あったあった。「人じゃないから、魚は接触OK」と、釣りに出かけてしまう晋作にクスクス。以降、素直で健康的、屈託なく宇田濱の人々に接する晋作に、画面も宇田濱の人々も、引っ張られて行きます。
百香と章男は、血の繋がった親子ではなく、実は舅と嫁。夫(息子)、子供たち(孫)、妻(姑)を、震災で亡くした二人。晋作の家は、親から独立して住むため、夫婦が建てた引っ越し前の家でした。同じように、子供と連れ合いを亡くした二人。そしてそれぞれ血の繋がりもある。どんなにお互いの存在に慰められたろうと思います。それが本当の父娘に見える理由だと思う。
晋作の存在が、百香に思いを寄せるケン(竹原ピストル)やタケ(三宅健)たちに波紋を呼び、同僚の仁美(池脇千鶴)や近所の爺さん(ビートきよし)らからは、あれこれ詮索され、疲弊する百香。都会では考えられない、プライバシーの無さ。そこには、まだまだ夫や子供たちの死から、立ち直れぬ彼女がいます。奇しくも今年は阪神大震災から30年。当時大阪で激しい揺れを体験した私にも、当時の怖さは鮮明です。百香にとって、たった9年。忘れられるものでは、ありません。
一人暮らしの隣のシゲ(白川和子)と仲良くなる晋作。他の住人と違い、色眼鏡で晋平を見る事もなく、自分の人生も晋作に語ります。何故話してくれるのか?
と問う晋作に、来年はいないからだと答えるシゲ。夫を見送り、息子三人は都会に居を構え、今はなかなか会う事も無い。人生とは出会いと別れを繰り返すものと、誰にも依存せず生活を送る彼女は、達観しているのでしょう。東京者の晋作と仲良くなるのは、偶然ではなく必然だったのかも。
金儲けのチャンスとばかり、ズカズカと慇懃無礼に宇田濱の町に乗り込む晋作の会社の社長の大津(小日向文世)。あの香典の厚さは、札束で人の頬を張るみたい。しかし、大手企業と地方の町役場という水と油のコラボは、あちこち軋轢を生みながら、少しずつ進み始めます。こういう光景を見ると、地方の活性化は、都会の企業には命題なんだと思う。儲けを度外視するのは、恵んでいるようで、その土地の人に失礼です。如何に儲けを生むか、その土地が活性化するか考えてこそ、企業だと思う。そう思うと、あんな美味しいそうなお刺身に手付かずだった社長の事も、許してあげようってもんです。
これら、たくさんの出来事を強弱つけてコミカルに笑わせ、または哀愁を帯びて胸に染み入って描く様子が秀逸。クドカンの脚本はいつもおふざけが過ぎる箇所がありますが、監督の腕なんでしょうか、ドタバタも寸止めで終わらせています。
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01月19日(日)
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