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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「哀れなるものたち」

ランティモス大好きを公言している私ですが、それは単純にすごく楽しめる監督であって、感動やストーリー性の深さを求める人ではありません。一口で言うと、肌が合う監督かな?それが今回、深く深く心に染み入りました。いつもブラックなユーモアの中に、ラストで物の哀れを表現していた人ですが、今回は若い女性の冒険譚を描いて、人としての希望に満ちています。今回も相変わらず変テコで暴力的で乱暴、でも愛に満ちていて、何と慈悲深いのかと感動してしまった。ラストに+制裁が加わっているのが、毒の利いたランティモスらしいフェミニズムでしょうか?監督はヨルゴス・ランティモス。
時はヴィクトリア王朝時代。入水自殺で亡くなった女性を直後引き上げた天才外科医のゴッドウィン(ウィレム・デフォー)。ある特殊な手術を施し、彼女の命を助けます。女性はベラ(エマ・ストーン)と名付けられます。ゴッドは彼の生徒のマックス(ユセフ・ラミー)に命じて、成長していくベラの様子を詳細に記録させます。マックスのベラへの気持ちに気づいたゴッドは、二人を結婚させようと、弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に契約書を依頼。しかしベラに興味を持ったダンカンは、彼女を連れて旅だって行きます。
初登場時のベラは、まるで乳児からやっと幼児へ移行したくらいでしょうか?体は成熟した女性なので、不気味な幼児特有の愛らしさがあります。この手術を試みたのは、ゴッドの生い立ちから来たのでしょう。彼の父は、息子であるゴッドを使い、生体実験を施し、ゴッドは何の罪もないのに、宦官にまでされている。天才と謳われた父ですが、人の心のないマッドサイエンティストであったのでしょう。ゴッドは子供には人権がなく、親のために生かされていると思っていたのでは?
父に顔まで切り刻まれたゴッドは、まるでフランケンシュタインのよう。しかし私には、目がとても慈悲深く見えたのです。それは元々彼に備わっていた感情なのでしょう。全て達観しているのですね。皆がゴッドの容姿を怖がる中、ベラはあらん限りの愛情を、ゴッドに示します。
女たらしのダンカンは、何人もの女性と関係があったでしょう。変わり種のベラに興味を持っただけなのは明白。当時のベラは人間の三大欲の、睡眠欲・食欲を経て、性欲に目覚めたばかり。変わり種でも、自分の婚約者のベラをレディとして扱うマックスより、ダンカンの不躾な甘い囁きは、性欲以外のベラの冒険心をも駆り立てたのでしょう。外の世界を知りたいのです。
ここで私がとても感じ入ったのは、ゴッドが旅立ちを許可し、そっとお金までベラに渡した事です。研究対象のはずが、まるで「可愛い子には旅をさせよ」の父親です。冒険は、成長著しいベラには必要な事だと認識している。この父性は、ベラが引き出したのです。マックスと同じく、彼女を尊重しているゴッドは、自分の父の非情さを思えば、親子と言えど別人格です。
セックスを知ったばかりのベラは、まるで猿の如し。しかし、これで魅入られてしまったのは、百戦錬磨のはずのダンカンの方。飽きたら捨てようと思っていた(!!!)ベラに、どんどんのめり込む。でもこれがベラに色目を使う男たちに嫉妬したりするんだけど、所有欲なのね。愛ではありません。ベラを観ていると、セックスは人間の活力になるのかと思う程。官能性がまるでなく、身体を鍛えているようにさえ見えます。ベラがどんどん人として成長していくのに対して、ダンカンはちっとも成長しない。何故?(笑)。
ベラは、本能の赴くままの生活から一歩も二歩も進んで、本を読み、街中を一人で探索、他者とコミュニケーションを取り、段々人としての知性も理性も感情も会得していきます。そして恵まれない人たちへ、悲痛な思いをも抱きます。良心です。何という長足の進歩!成長を促すキーワードは、きっと好奇心なんだと思う。
ベラの目線で歩き回る、世の中の様子がとても素敵です。ゴージャスなんですが、遊び心があり、斬新で新鮮。美術さん、素晴らしい!既視感のある船の中とまるで違う様子に、ベラの解放感が現れているのだと思います。
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02月05日(月)
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